・・・離筵となると最早唐人ではなくて、日本人の書生が友達を送る処に変った。剣舞を出しても見たが句にならぬ。とかくする内に「海楼に別れを惜む月夜かな」と出来た。これにしようと、きめても見た。しかし落ちつかぬ。平凡といえば平凡だ。海楼が利かぬと思えば・・・ 正岡子規 「句合の月」
・・・僕たちお友達になろうかねえ。」「はじめから友だちだ。」一郎が少し顔を赤くしながら云いました。「あした僕は又どっかであうよ。学校から帰る時もし僕がここに居たようならすぐおいで。ね。みんなも連れて来ていいんだよ。僕はいくらでもいいこと知・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ 旅行では一人旅よりも、気の合った友達と行くのが好きです。展開されゆく道中の景色を楽しく語合うことも出来ますし、それに一人旅のような無意味な緊張を要しないで気安い旅が出来るように思います。煩いのない静かなところに旅行して暫く落ちついてみ・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・田中は阿菊物語を世に残したお菊が孫で、忠利が愛宕山へ学問に往ったときの幼な友達であった。忠利がそのころ出家しようとしたのを、ひそかに諫めたことがある。のちに知行二百石の側役を勤め、算術が達者で用に立った。老年になってからは、君前で頭巾をかむ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・これからはまたただのお友達でございますよ。 男。さよう。どうも思召通りにするより外ありません。 女。ともかくもお互の間に愉快な、わだかまりの無い記念だけは残っていると云うものでございますね。二人は惚れ合っていました。キスをしました。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・僕と俳句友達ですから、遠慮の要らない間柄なんです。」と高田は附加して云った。「しかし、憲兵に来られちゃね。」「さァ、しかし、そこは句会ですから、何とかうまくやるでしょう。」 途中の間も、梶と高田は栖方が狂人か否かの疑問については・・・ 横光利一 「微笑」
・・・「あれが友達です。ホオルンベエクと云う隣村の牧師です。やはりわたしと同じように無妻で暮しています。それから余り附合をしないことも同様です。年越の晩には、極まって来ますが、その外の晩にも、冬になるとちょいちょい来て一しょにトッジイを飲んで話し・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫