・・・ ところでお島婆さんの素性はと云うと、歿くなった父親にでも聞いて見たらともかく、お敏は何も知りませんが、ただ、昔から口寄せの巫女をしていたと云う事だけは、母親か誰かから聞いていました。が、お敏が知ってからは、もう例の婆娑羅の大神と云う、・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・たちまち姉は優しく妹の耳に口寄せて何事かささやきしが、その手をとりて引き立つれば妹はわれを見て笑みつ、さて二人は唄うこともとのごとくにしてかなたに去りぬ。 げに見すぼらしき後ろ影、蓬なす頭、色あせし衣、われはしばしこれを見送りてたたずみ・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・乙女の星はこれを見て早くも露の涙うかべ、年わかき君の心のけだかきことよと言い、さて何事か詩人の耳に口寄せて私語き、私語きおわれば恋人たち相顧みて打ちえみつ、詩人の優しき頬にかわるがわる接吻して、安けく眠りたまえと言い言い出で去りたり。 ・・・ 国木田独歩 「星」
・・・先ず魔法、それから妖術、幻術、げほう、狐つかい、飯綱の法、荼吉尼の法、忍術、合気の術、キリシタンバテレンの法、口寄せ、識神をつかう。大概はこれらである。 これらの中、キリシタンの法は、少しは奇異を見せたものかも知らぬが、今からいえば理解・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
出典:青空文庫