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・・・丁寧な語の中に、鋭い口気を籠めてこう云った。 斉広はこれを聞くと、不快そうに、顔をくもらせた。長崎煙草の味も今では、口にあわない。急に今まで感じていた、百万石の勢力が、この金無垢の煙管の先から出る煙の如く、多愛なく消えてゆくような気がし・・・
芥川竜之介
「煙管」
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・・・ 口気酒芬を吐きて面をも向くべからず、女は悄然として横に背けり。老夫はその肩に手を懸けて、「どうだお香、あの縁女は美しいの、さすがは一生の大礼だ。あのまた白と紅との三枚襲で、と羞ずかしそうに坐った恰好というものは、ありゃ婦人が二度と・・・
泉鏡花
「夜行巡査」