第一巻 ことしの夏、私はすこしからだ具合いを悪くして寝たり起きたり、そのあいだ私の読書は、ほとんど井伏さんの著書に限られていた。筑摩書房の古田氏から、井伏さんの選集を編むことを頼まれていたからでもあったのだ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・古から、古田氏まで沢山ある。種々なことをそれによって知るが、女性には尠い。私は寡聞にして殆ど女性の手になったものを知らない。一つには、女性の犯罪が原始的な故もある。獄中生活を記録し、批判するだけの教養があったら行わない犯罪が女囚には多い。そ・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・それについては、嬉しいこと、いやなこと、訳の分らないことが重って十八歳の自分に折りたたまって来たのであったが、そういう頃の或る日、母が、「古田中さんのところで、お前をよんで下さったよ」と云った。古田中さんと云われて、わたしにすぐ見当・・・ 宮本百合子 「白藤」
出典:青空文庫