・・・窓の中を覗いて見ると、几の上の古銅瓶に、孔雀の尾が何本も挿してある。その側にある筆硯類は、いずれも清楚と云うほかはない。と思うとまた人を待つように、碧玉の簫などもかかっている。壁には四幅の金花箋を貼って、その上に詩が題してある。詩体はどうも・・・ 芥川竜之介 「奇遇」
・・・うす暗い床の間には、寒梅と水仙とが古銅の瓶にしおらしく投げ入れてあった。軸は太祇の筆であろう。黄色い芭蕉布で煤けた紙の上下をたち切った中に、細い字で「赤き実とみてよる鳥や冬椿」とかいてある。小さな青磁の香炉が煙も立てずにひっそりと、紫檀の台・・・ 芥川竜之介 「老年」
・・・さてしかし骨董という音がどうして古物の義になるかというと、骨董は古銅の音転である、という説がある。その説に従えば、骨董は初は古銅器を指したもので、後に至って玉石の器や書画の類まで、すべて古いものを称することになったのである。なるほど韓駒の詩・・・ 幸田露伴 「骨董」
出典:青空文庫