・・・無線電話で召集でもされたかと思うように一時にあちらからもこちらからも飛んで来るのである。これもおそらく蛾が一種の光度計を所有しているためであろうが、それにしても何町何番地のどの家のどの部分に烏瓜の花が咲いているということを、前からちゃんと承・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・無線電話で召集でもされたかと思うように一時にあちらからもこちらからも飛んで来るのである。これもおそらく蛾が一種の光度計を所有しているためであろうが、それにしても何町何番地のどの家のどの部分にからすうりの花が咲いているということを、前からちゃ・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・当時父は日清戦役のために予備役で召集され、K留守師団に職を奉じながら麹町区平河町のM旅館に泊まっていたのである。 Iの家の二階や階下の便所の窓からは、幅三尺の路地を隔てた竹葉の料理場でうなぎを焼く団扇の羽ばたきが見え、音が聞こえ、におい・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・父が日清戦争に予備役で召集されて名古屋にいたのを、冬の休みに尋ねて行ってしばらく同じ宿屋に泊っていたときのことである。戦争中で夜までも忙がしいので父の帰りは遅いことがしばしばあった。自分だけ早くから寝てもなかなか寝付かれないので、もう帰るか・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・「があ、非常召集、があ、非常召集」 大尉の部下はたちまち枝をけたてて飛びあがり大尉のまわりをかけめぐります。「突貫。」烏の大尉は先登になってまっしぐらに北へ進みました。 もう東の空はあたらしく研いだ鋼のような白光です。 ・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・兵営と前線生活では婦人のすることがすべて不幸な召集された男の手によってされていた。銃後では、家庭を破壊されたすべての哀れな女性が、軍の労働者に代って武器製造をした。これがどんな人間らしくない、不幸の図絵であったかということは今日すべての男女・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・つまり、人権剥奪の最もはげしい形である戦争への召集のために、個々の存在抹殺としての身分平等化が行われたわけであった。朝鮮の人々の日本名への改姓が強制されたと同じに――。しかし、日本の大学でも兵営でも、部落の人々の遭遇する運命は多難であった。・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・よむ人に納得され、共感される一つの世界として作品を存在させるためには、ここに一人のAならAという人が日本の勤労人民、および召集された兵士として経てきた生活経験の末にめぐりあっているソヴェト社会の捕虜生活という、客観的な条件が先ずはっきりつか・・・ 宮本百合子 「結論をいそがないで」
・・・ 各作家めいめいが、めいめいの傾向のままにそれ等を書いたのであったが、十月革命は、その発展の日常具体的な過程によってあらゆる個人を集団へ、集団的行動の中へと召集した。どんな作家達でも、革命の実践が教えた集団の価値、行動のテンポを自分たち・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・非番巡査まで非常召集され顎紐をかけ脚絆をつけた連中が内庭と演武場に充満して佩剣をならしている。 高等室では主任と宿直だけがのこり、署の入口のところに二台大トラックが止って、二人の普通の運転手がその上でだらしなく居睡りをしている。 頻・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫