・・・ 戦争へ召集する一枚の赤紙はその絶対命令によって、日本のあらゆる家庭から良人と父親、愛人、兄弟たちを奪い取りました。一枚の赤紙は、幾千万の日本の家庭を片はじから破壊しました。婦人が男にかわって今日までつくしてきた生活上の努力は言葉には云・・・ 宮本百合子 「国際民婦連へのメッセージ」
・・・ペンさんが昨日は非常召集で病院へまで行ってくれ、生れた子もよく見てきてくれました。「この子は本当に、生れた時から知っているんだから」と大えばりです。この人には一家のなかの死に損ないから誕生まで、何やらかやらと厄介をかけます。今日は木枯らしが・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そういう心配はないとして、結婚のその夜召集が来たというような実例は、目前に自分たちのこととして思うとき男にも女にも考えさせるものを持っているには違いない。逡巡にもそれとしての理由があるし、又男のひとが、解消の方へと方向をかえてしまい、それで・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・には十日間で免除された召集中の軍隊生活の経験がとりあげられている。この間までの数年間、日本じゅうの青年の恐怖や苦痛、忍耐の経験の一つの表現である。この題材がとりあげられたことはよかった。が、「町工場」の題材とちがって、国家の権力によって組織・・・ 宮本百合子 「小説と現実」
・・・ ソヴェトを守れ! プロレタリアートの生産と文化を守れ! 召集は、モスクワの国際革命作家書記局から、世界のプロレタリア作家、革命的作家に向って発せられた。第二回国際革命作家大会がソヴェト革命第十三年記念祭を機会にハリコフで持たれよう・・・ 宮本百合子 「ソヴェト文壇の現状」
・・・千何百名とかに、電気局は召集の電報を打ったそうだが、その人をばかにした呼び出しを突っぱねることの出来た者は、果して何割あったろうか。私は、シャツ一枚の運転手や長い脛を力一杯踏ばっても猶よろよろしながら片手で大切そうに鞄を押える俄車掌の姿を、・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・ 日本プロレタリア文化連盟に結集する各文化団体は、それぞれの機関誌を特輯号とし、あるいは号外を刊行して、同志小林の英雄的殉難を記念し、虐殺に抗議し、労農葬に向って大衆を召集しつつその復讐を誓った。 野獣の如き軍事的警察的テロルの虐殺・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
・・・けれども、戦争に男たちを召集して、第一番に家庭を破壊したのは、誰であったろう。外部の力に無判断に屈従する習慣を、熱心に日本人民の第二の天性としようとしたのは、何者であっただろうか。今日、婦人のモラルの失墜を嘆くならば、その根本の原因をなした・・・ 宮本百合子 「人間の道義」
・・・この頃はいつ召集があるかもしれないような事情のなかで、自分たちが本気でそれを守り高めようとして暮している夫婦生活の平凡な真面目さが、何かに嘲弄されているような嫌な気もするのであった。 北向きの三畳が多喜子の家では仕事部屋になっていて、東・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・それのみか、戦いの終わろうとする間ぎわになって、やはり空襲のために、学徒で召集されていた愛孫を失われた。そのあとには占領下の変転のはなはだしい時期がつづく。その一年あまりの間、都会育ちの先生が、立ち居も不自由なほどの神経痛になやみながら、生・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
出典:青空文庫