・・・ 学校で席を並べていた同年の留吉は、一ヶ月ほど前、醸造場へ来たばかりだったが、勝気な性分なので、仕事の上では及ばぬなりにも大人のあとについて行っていた。彼は、背丈は、京一よりも低い位いだったが、頑丈で、腕や脚が節こぶ立っていた。肩幅も広・・・ 黒島伝治 「まかないの棒」
一 内地へ帰還する同年兵達を見送って、停車場から帰って来ると、二人は兵舎の寝台に横たわって、久しくものを言わずに溜息をついていた。これからなお一年間辛抱しなければ内地へ帰れないのだ。 二人は、過ぎて来・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・それと引違えて徐に現れたのは、紫の糸のたくさんあるごく粗い縞の銘仙の着物に紅気のかなりある唐縮緬の帯を締めた、源三と同年か一つも上であろうかという可愛らしい小娘である。 源三はすたすたと歩いていたが、ちょうどこの時虫が知らせでもしたよう・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・隣村からわざわざ嫂や姪や私の娘を見にやって来てくれた人もあったが、私と同年ですでに幾人かの孫のあるという未亡人が、その日の客の中での年少者であった。 しかし、一同が二階に集まって見ると、このお婆さんたちの元気のいい話し声がまた私をびっく・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・昭和二年同校四学年修了。同年、弘前高等学校文科に入学。昭和五年同校卒業。同年、東京帝大仏文科に入学。若き兵士たり。恥かしくて死にそうだ。眼を閉じるとさまざまの、毛の生えた怪獣が見える。なあんてね。笑いながら厳粛のことを語る。と。「笠井一・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・おかみは、はじめ僕には三十すぎのひとのように見えましたが、僕と同年だったのです。いったいに、老けて見えるほうでした。痩せて小柄で色が浅黒く、きりっとした顔立ちでしたが、無口で、あまり笑わず、地味で淋しそうな感じのするひとでした。「こちら・・・ 太宰治 「女類」
・・・ 昭和十一年十月十三日から同年十一月十二日まで、一箇月間、私は暗い病室で毎日泣いて暮していた。その一箇月間の日記を、私は小説として或る文芸雑誌に発表した。わがままな形式の作品だったので、編輯者に非常な迷惑をおかけした様子である。HUMA・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・最初にやった実験は、電流計の磁針が交流でふれることに関するものであって、その結果は同年の British Association で報告している。その外の実験は色に関するものや、電気感応と惰性とのアナロジーなどに関するもので、これに関するマ・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・この二つの歌仙は同年にできてはいるようであるが、この二つのものの中間にいかなる連中と何回いかなる連句を作っているかそれは私には全くわからない。しかし私の書き抜いた長短わずかに二十三句の中にこういう「魚鳥」複合といったようなものが三度までも現・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ この席におられる大森教授は私と同年かまたは前後して大学を出られた方ですが、その大森さんが、かつて私にどうも近頃の生徒は自分の講義をよく聴かないで困る、どうも真面目が足りないで不都合だというような事を云われた事があります。その評はこの学・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
出典:青空文庫