・・・これには貴所も御同感と信ずる。もし梅子嬢の欠点を言えば剛という分子が少ない事であろう、しかし完全無欠の人間を求めるのは求める方が愚である、女子としては梅子嬢の如き寧ろ完全に近いと言って宜しい、或は剛の分子の少ないところが却て梅子嬢の品性に一・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・たぶん同感の人もすくなからぬことと思う。 それで今、すこしく端緒をここに開いて、秋から冬へかけての自分の見て感じたところを書いて自分の望みの一少部分を果したい。まず自分がかの問に下すべき答は武蔵野の美今も昔に劣らずとの一語である。昔の武・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・彼等の思想や、立場には勿論同感しないが、彼等のペンをとる態度は、僕は、どこまでも、手本として学びたいと心がけている。 愛読した本と、作家は、まだほかに多々あるが紙数の都合でこれだけとする。・・・ 黒島伝治 「愛読した本と作家から」
・・・ 私は詩碑の表面に記された今までの世界が空白になって──という春月の気持よりも、この畑へあがって行く女に同感しながら丘を下った。─小豆島にて─ 黒島伝治 「短命長命」
・・・抑圧者、搾取者に対する、被圧迫階級の戦争には、吾々は同感せざるを得ない。そしてその勝利を希わざるを得ない。 二 現在、吾々の眼前に迫りつゝある戦争は、どういう性質のものであろうか。 こゝに、泥棒と泥棒が、その盗・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・が、プルドーンが、そんな時屋根の上にあがり、星を眺め、気を沈め、しばらくそうしてから室に帰り眠るということをきいて、同感だった。同じ気持の人がいるかと思うとうれしかった。 彼は顫えがとまらなかった。何度も室の中を行ったり来たりした。彼は・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・瀬川先生の説に拠ると、大隅君は感覚がすばらしくよいくせに、表現のひどくまずい男だそうだが、私もいまは全くそのお説に同感であった。 けれども、やがて、上の姉さんが諏訪法性の御兜の如くうやうやしく家宝のモオニングを捧げ持って私たちの控室には・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ あたたかくて、やわらかくて、この岩、好きだな、女のひとはそう言って撫でまわして、私も同感であったあのひらたい岩がなくなった。飛びこむ直前までそのうえで遊びたわむれていたあの岩がなくなった。こんな筈はない。どちらかが夢だ。がったん、電車は、・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・『鼻』に嫌気がさしていた山口を誘い、彼の親友、岡田と大体の計画をきめてから、ぼくは先ず神崎、森の同感を得、次に関タッチイを口説きに小日向に上りました。タッチイを強引に加入させると、カジョー、神戸がついてきてくれました。かくして、タッチイの命・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・しかし、さらに一歩を進めて、科学上の傑出した著述はすべて芸術であると言おうとすれば、これにはおそらく容易に同感を表しかねる人が多いであろうと思われる。こういう見方はしかし、実はそれほど無稽なものでないということは、すでに自分のみならず、他の・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫