・・・事によると、同業組合の一人かも知れない。何です、君の専門は?」「史学科です。」「ははあ、史学。君もドクタア・ジョンソンに軽蔑される一人ですね。ジョンソン曰、歴史家は almanac-maker にすぎない。」 老紳士はこう云って・・・ 芥川竜之介 「西郷隆盛」
・・・ 自分は猛雨を冒して材木屋に走った。同業者の幾人が同じ目的をもって多くの材料を求め走ったと聞いて、自分は更に恐怖心を高めた。 五寸角の土台数十丁一寸厚みの松板数十枚は時を移さず、牛舎に運ばれた。もちろん大工を呼ぶ暇は無い。三人の男共・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・夫は、あらわれませんでしたが、夫の昔からの知合いの出版のほうの方で、時たま私のところへ生活費をとどけて下さった矢島さんが、その同業のお方らしい、やはり矢島さんくらいの四十年配のお方と二人でお見えになり、お酒を飲みながら、お二人で声高く、大谷・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・破れるほどの喝采にて、またもわれら同業者の生活をおびやかす下心と見受けたり。おめでとう。『英雄文学』社のほうへ送った由、も少し稿料よろしきほうへ送ったらよかったろうに。でも、まあ、大みそか、お正月、百円くらい損してもいいから、一日もはやく現・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・そうしておいてから、田代公吉を縄張問題から同業の暴漢になぐらせ負傷させ卒倒させておいてそこへ前のダンサーを通りかからせ、そうして目的のアパートへ連れて行かせる。そこでダンサーに身の上話をさせることによって悪漢騎手の旧情夫の存在を観客に呑込ま・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・それに対する粗忽干万なジゥルナリズムの批評も聞こう。同業者の誼みにあんまり黙っていても悪いようなら議論のお相手もしよう。けれども要するに、それはみんな身過ぎ世過ぎである。川竹の憂き身をかこつ哥沢の糸より細き筆の命毛を渡世にする是非なさ……オ・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・自分の座というのは自分が足を伸ばして寝るだけの広さで、同業の新聞記者が十一人頭を並べて居る。自分らの頭の上は仮の桟敷で、そこには大尉以下の人が二、三十人、いつも大声で戦の話か何かして居る。その桟敷というのは固より低いもので、下に居る自分らが・・・ 正岡子規 「病」
・・・へのプロテスト――農村と都会の分裂の悲劇p.67 十六世紀のアンリ四世とパリの同業組合p.68 異教の擡頭につれて、パリでは警吏が町角の聖母像におじぎを強要した。ふみ絵の元祖?一五六〇年頃p.72 新教と「家庭」。市・・・ 宮本百合子 「バルザック」
・・・フランス全国の同業者等は、この唐突に現れた資本も少ない若年の一出版業者が、疑なく時流に投じるであろう出版計画をもっていることを見極めると、共通な悪計によって結束した。一万フランの資本をかけて出版した本の売上げが、一年にやっと二十部という目に・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫