・・・豹一はそれを教室へ持参し、クラスの者に見せた。彼らはかねてこのことあるを期待していたが、見せられると偽の手紙やろ。お前が書いたんと違うかと言わざるを得なかった。豹一は同級生がこっそり出していた恋文を紀代子からむりやりに奪い取って、それを教室・・・ 織田作之助 「雨」
・・・後年私は、新聞紙上で、軍人や官吏が栄転するたびに、大正何年組または昭和何年組の秀才で、その組のトップを切って栄進したという紹介記事を読んで、かつての同級生の愚鈍な顔を思い出さぬ例しは一度もないくらいである。彼等が今日本の政治の末端に与ってい・・・ 織田作之助 「髪」
画を好かぬ小供は先ず少ないとしてその中にも自分は小供の時、何よりも画が好きであった。。 好きこそ物の上手とやらで、自分も他の学課の中画では同級生の中自分に及ぶものがない。画と数学となら、憚りながら誰でも来いなんて、自分・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・学校における成績も中等で、同級生のうち、彼よりも優れた少年はいくらもいた。また彼はかなりの腕白者で、僕らといっしょにずいぶん荒れたものである。それで学校においても郷党にあっても、とくに人から注目せられる少年ではなかった。 けれども天の与・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・お徳に言わせると、末子の同級生で新調の校服を着て学校通いをするような娘は今は一人もないとのことだった。「そんなに、みんな迷っているのかなあ。」「なんでも『赤襟のねえさん』なんて、次郎ちゃんたちがからかったものですから、あれから末子さ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・そこの石塔の側、ここの松の下には、同級生などが佇立んで、この光景を眺めていた。 ある日、薄い色の洋傘を手にしたような都会風の婦人が馬場裏の高瀬の家を訪ねて来た。この流行の風俗をした婦人は東京から来たお島の友達だった。最早山の上でもす・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ 私は焼け出されて津軽の生家の居候になり、鬱々として楽しまず、ひょっこり訪ねて来た小学時代の同級生でいまはこの町の名誉職の人に向って、そのような八つ当りの愚論を吐いた。名誉職は笑って、「いや、ごもっとも。しかし、それは、逆じゃありま・・・ 太宰治 「嘘」
・・・生は、ここのご主人と同様の四十歳前後のお方で、やはりここのご主人の勤めていらした本郷の大学の先生をしていらっしゃるのだそうで、でも、ここのご主人は文学士なのに、笹島先生は医学士で、なんでも中学校時代に同級生だったとか、それから、ここのご主人・・・ 太宰治 「饗応夫人」
・・・ 笠井氏は、僕の郷里の先輩で、僕の死んだ兄とは大学で同級生だったらしく、その関係もあり、笠井氏と僕とは、単に作家と編輯者の附合い以上に親しくしていて、僕の雑誌でも笠井氏の原稿をもらうのは、もっぱら僕の係りで、また笠井氏も、僕の原稿依頼な・・・ 太宰治 「女類」
・・・書きは興覚めに違いないのであるが、ちかごろ甚だ頭の悪い、無感覚の者が、しきりに何やら古くさい事を言って騒ぎ立て、とんでもない結論を投げてよこしたりするので、その頭の古くて悪い 彼は私と小学校時代の同級生であったところの平田だという。・・・ 太宰治 「親友交歓」
出典:青空文庫