・・・しかしこの名医の薬を飲むようになってもやはり甚太夫の病は癒らなかった。喜三郎は看病の傍、ひたすら諸々の仏神に甚太夫の快方を祈願した。病人も夜長の枕元に薬を煮る煙を嗅ぎながら、多年の本望を遂げるまでは、どうかして生きていたいと念じていた。・・・ 芥川竜之介 「或敵打の話」
・・・左右にすわっている人々のようすをきくと、いずれも彼女と同じ病気であるらしいので、いまさら、その名医ということが感ぜられたのでありました。 そのうちに、看護婦が入って、彼女のかたわらにきました。「あなたですか、院長さんに見てもらいたい・・・ 小川未明 「世の中のこと」
・・・君の病気は東京の名医たちが遊んでいたら治るといい、君もまた遊び気分で飛んでもない田舎などをノソノソと歩いている位だから、とてもの事に其処へ遊んで見たまえ。住持といっても木綿の法衣に襷を掛けて芋畑麦畑で肥柄杓を振廻すような気の置けない奴、それ・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・オオヴェルニュのクレエルモン・フェラン市にシブレエ博士と呼ぶ眼科の名医が居た。彼は独創的な研究によって人間の眼は獣類の眼と入れ替える事が容易で、且つ獣類の中でも豚の眼と兎の眼が最も人間の眼に近似している事を実験的に証明した。彼は或る盲目の女・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・国中の名医が寄り集り、さまざまに手をつくしてみましたが愈々はかなく、命のほども危く見えました。「だから、だから、」ラプンツェルは、寝床の中で静かに涙を流しながら王子に言いました。「だから、あたしは、子供を産むのは、いやですと申し上げたじ・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・ 天佑と名医の技術によって幸いに子供は無事に回復した。骨の折れたのも完全に元のとおりになるのだそうである。 鎖骨というものはこういう場合に折れるためにできているのだそうである。これが、いわば安全弁のような役目をして気持ちよく折れてく・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・つまり人間の体内に耆婆扁鵲以上の名医が居て、それが場合に応じて極めて微妙な調剤を行って好果を収めるらしいというのである。「それじゃ結局昔の草根木皮を調合した万病の薬が一番合理的ではないか」と聞いたら「まあ、そんなものだね」という返事であった・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・帚葉山人はわざわざわたくしのために、わたくしが頼みもせぬのに、その心やすい名医何某博士を訪い、今日普通に行われている避姙の方法につき、その実行が間断なく二、三十年の久しきに渉っても、男子の健康に障害を来すような事がないものか否かを質問し、そ・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・仲よくつき合ったp.95○連隊長マレールのリュシアンに対する悪感情○決闘して負傷したリュシアン 兵士のメニュエルに介抱される メニュエルとリュシアンの感情p.114 ナンシイの名医王党派デュ・ポワリエ氏○の ch・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
出典:青空文庫