・・・かりに女が不幸だとしても、それはいわゆる男の教養だけの問題ではあるまいと思った。「何べん解消しようと思ったかも分れしまへん」 解消という言葉が妙にどぎつく聴こえた。「それを言いだすと、あの人はすぐ泣きだしてしもて、私の機嫌とるの・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・単に食う食わぬの問題だったら、田舎へ帰って百姓するよ」 彼は斯う額をあげて、調子を強めて云った。「相変らず大きなことばかし云ってるな。併し貧乏は昔から君の附物じゃなかった?」「……そうだ」 二人は一時間余りも斯うした取止めの・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・その全き悲しみのために、この結末の妥当であるかどうかということさえ、私にとっては問題ではなくなってしまう。しかし、はたして、爪を抜かれた猫はどうなるのだろう。眼を抜かれても、髭を抜かれても猫は生きているにちがいない。しかし、柔らかい蹠の、鞘・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・故郷の風景は旧の通りである、しかし自分は最早以前の少年ではない、自分はただ幾歳かの年を増したばかりでなく、幸か不幸か、人生の問題になやまされ、生死の問題に深入りし、等しく自然に対しても以前の心には全く趣を変えていたのである。言いがたき暗愁は・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・この闘いに協同戦線を張って助け合うことが夫婦愛を現実に活かす大きな機会でなくてはならぬ。たのみ合うという夫婦愛の感じは主としてここから生まれる。この問題でたよりにならない相手では、たのみにならない味方ということになる。この闘いは今日の場合で・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ 憲兵にとって、一枚の贋造紙幣が発見されたということは、なんにも自分の利害に関する問題ではなかった。発覚されない贋造紙幣ならば、百枚流通していようが、千枚流通していようが、それは、やかましく、詮議立てする必要のないことだった。しかし一度・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・大噐不成なのか、大噐既成なのか、そんな事は先生の問題ではなくなったのであろう。 幸田露伴 「観画談」
・・・ 故に、人間の死ぬのは、もはや問題ではない。問題は、実に、いつ、いかにして死ぬかにある。むしろ、その死にいたるまでに、いかなる生をうけ、かつ送ったかにあらねばならない。 三 いやしくも、狂愚にあらざる以上、なん・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・深く秘めおいたる虎の子をぽつりぽつり背負って出て皆この真葛原下這いありくのら猫の児へ割歩を打ち大方出来たらしい噂の土地に立ったを小春お夏が早々と聞き込み不断は若女形で行く不破名古屋も這般のことたる国家問題に属すと異議なく連合策が行われ党派の・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ですらもはや問題でないという顔つきで、フランス最近の画界を代表する人たち――ことに、ピカソオなぞを口にするような若者になっていた。「とうさん、今度来たビッシェールの画はずいぶん変わっているよ。あの人は、どんどん変わって行く――確かに、頭・・・ 島崎藤村 「嵐」
出典:青空文庫