・・・わあと喚声を揚げて子供たちは逃げる。私も真似をして、わあと、てれくさい思いで叫んで逃げる。曲馬団の者が追って来る。「あんたはいい。あんたは、いいのです。」 曲馬団の者はそう言って、私ひとりをつかまえて抱きかかえ、テントの中へ連れて帰・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・Of course. クラスの生徒たちは、どっと奇怪な喚声をあげた。ブルウル氏は蒼白の広い額をさっとあからめて彼のほうを見た。すぐ眼をふせて、鼻眼鏡を右手で軽くおさえ、If it is, then it shows great promis・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・門の扉は左右に開き、喚声をあげて突撃して来る味方の兵士が、そこの隙間から遠く見えた。彼は閂を両手に握って、盲目滅法に振り廻した。そいつが支那人の身体に当り、頭や腕をヘシ折るのだった。「それ、あなた。すこし、乱暴あるネ。」 と叫びなが・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ドドドドドドドと重く地をふるわすとどろきにまじって、わーッ、わーッと人々の喚声がつたわって来た。雨上りの闇夜を、車輌のとどろきとともに運ばれてゆく喚声も次第に遠のいて、ついには全く聴えなくなってしまった。胸のどこかが引きはがされるような感じ・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・子供たちは大人の心やりのために、彼等の喚声と動きとの明暮をもっているのではないのだから。 宮本百合子 「子供の世界」
出典:青空文庫