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・・・一度、しかとしめて拱いた腕を解いて、やや震える手さきを、小鬢に密と触れると、喟然として面を暗うしたのであった。 日南に霜が散ったように、鬢にちらちらと白毛が見える。その時、赤蜻蛉の色の真紅なのが忘れたようにスッと下りて、尾花の下に、杭の・・・
泉鏡花
「みさごの鮨」
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・・・(喟然夫人 爺さん、さあ、行こう。人形使 ええ、ええ。さようなら旦那様。夫人 行こうよ。二人行きかかる。本雨。画家 お持ちなさい。夫人 貴方は。画家 雨ぐらいは何の障もありません。夫人 お志頂戴します・・・
泉鏡花
「山吹」