・・・よう、よう、よう、ようと居酒屋のなかから嘲弄の声が聞えた。六七人のならずものの声なのである。番傘を右手にささげ持ちながら次郎兵衛は考える。あああ。喧嘩の上手になりたいな。人間、こんな莫迦げた目にあったときには理窟もくそもないものだ。人に触れ・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・一体被告の申立ては法廷を嘲弄しているものと認めます」と、裁判官達は云った。 おれは死刑を宣告せられた。それから法廷を侮辱した科によって、同時に罰金二十マルクに処せられた。「被告の所有者たる襟は没収する限りでないから、一応被告に下げ渡・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・で知られている瀧沢敬一が、世界平和のための積極的な発言者であるジョリオ・キューリー博士を政治的な嘲弄の言葉で通信にかいているのを見れば、平和を希う世界の良心に加えられた侮蔑と感じずにいられないのである。現代は、わたしたちが思っているよりも更・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・などと叫ぶアナウンサアの声がわり込み、音楽と野球実景放送とがしばらくあやめも分らずもつれ合ったあげく、拡声器はブブブ、ヒューと、自身の愚劣さを嘲弄するように喚いて、終には一二分何も聞えないようになってしまうのであった。 ああいう沈黙生活・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
一九三〇年の夏のことだ。 ソヴェト同盟では、世界のブルジョア学者、政治家が口を揃えて嘲弄した生産拡張の五ヵ年計画をあらゆる革命的勤労者の支持と、偉大な努力とで、第二年目を終ろうとしている。ソヴェト全土に燃えるような飛躍・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ ソヴェト同盟の大衆にとって、こういう種類の諷刺が、ほんとの諷刺としてうけとれず、そこにブルガーコフの傍観主義や底意地のわるい嘲弄を感じたのは、むしろ自然であった。 大体、文学をこめてのプロレタリア芸術一般にとって、諷刺的手法が正し・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ そして、嘲弄するように、「マ、そうやってがんばって見るさ」 ポケットから赤い小さいケースに入った仁丹を出して噛みながら云った。「ブルジョア法律は、認定で送れるんだからね、謂わば君が承認するしないは問題じゃないんだ」「そ・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・或いはいくらか嘲弄的にもふれられる。ある読者からフロイドをどう考えるか、という質問もあった。 わたしの生活と文学との通って来た特別な道行きをさかのぼってみると、わたしは、常にコンプレックスを解く方向へ努力しつづけて来た人間であった。互に・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 日本の平和擁護のための運動に対して傍観的であり、あるいは嘲弄的であるのは、福田恆存一人ではない。福田恆存がそこに加っていないということで日本の「平和を守る会」や「知識人の会」が、その動機と行動において、ほんとの程度がわからないという客・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・的社会の相の不安につれて、いわゆるインテリゲンチアに対する嘲弄が文学その他の文化の面に現れていることである。 歴史はわれわれに実例を以て真に多数者の利害の上に立った文化を建設して行くためには、その基礎となる生産関係の解決問題と共に、進歩・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
出典:青空文庫