・・・という、えたいの知れぬ人工的非科学的な因子が、送風器械としては本来科学的であるべき器具の設計に影響を及ぼすものかと驚かれるくらいである。しかし、考えてみると、団扇や扇のようなものは元来どこまでが実用品で、どこまでが玩弄品であるか、それはわか・・・ 寺田寅彦 「錯覚数題」
・・・しかしまた考えてみると、とんぼの方向を支配する環境的因子はいろいろあるであろうから、他の多数のとんぼが感じないようなある特殊な因子に敏感な少数のものだけが大衆とはちがった行動を取っているのかもしれないと思われた。そのようなことの可能性を暗示・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・のメロディーを放散していると、いつのまにか十人十五人の集団がその下に円陣を作るのも、あながち心理的ばかりではなくて、なにかわれわれのまだ知らない生理的な因子がはたらいているのかもしれない。 朝九時ごろ出入りのさかな屋が裏木戸をあけて黙っ・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・放電についても放電管内の陽極の縞や、陽極の光った斑点の週期的紋形なども最も興味あるものであり、よく知られてもおりながら、ここでもやはり週期決定因子の研究が奇妙にも等閑に付せられているのである。 また、粘土などを水に混じた微粒のサスペンシ・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・従ってある現象を定むる因子中より第一にいわゆる偶発的突発的なるものを分離して考うれども、世人はこの区別に慣れず。一例を挙ぐれば、学者は掌中の球を机上に落す時これが垂直に落下すべしと予言す。しかるに偶然窓より強き風が吹き込みて球が横に外れたり・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・ 科学的にもやはり抽象型と具象型、解析型と直観型があるが、これがやはり詩人の二つの型に対応されるべき各自に共通な因子をもっているように見える。 詩人にも科学者にもそれぞれの型について無限に多様な優劣の段階がある。要は型の問題ではなく・・・ 寺田寅彦 「詩と官能」
・・・ 佐橋と阿部とは生きかたに於て正反対であるけれども、それはやはり飽く迄性格的なものとして見られていて、作者は、佐橋の朝鮮までの高とびの因子が、到るところに垣を結っている息苦しいその時代の君臣関係の、臣として求められる限界性への反作用とい・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 良人となる青年がそれだけ念の入った複合体であると同様に妻となる女性も、彼女の或は無心な情緒の奥にそれだけの因子をちゃんとしまっているわけである。 人間の性格や気質にいろいろの癖があったり自己撞着があったりするのも畢竟は、私たちすべ・・・ 宮本百合子 「家庭創造の情熱」
・・・ この二三年来、各作家はめいめいの個人の生きかたというものに、これ迄とちがった腰の据えかたをしており、そこでの実感というものが、文学の上で多くのものを語る因子となって来ている。そのこととして、これはもとよりわるいことでないし、一種の・・・ 宮本百合子 「現実と文学」
・・・その他日本的な種々雑多な因子としている上に、将来日本が憲法をかえてさえ再武装するかもしれないという信じがたいほどの民族的苦痛の要因に重くされている。 わたしが生活と文学とにコンプレックスを全然持たないか、或は極く少くしかもたない女だとい・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
出典:青空文庫