・・・ 作家・評論家自身がどのような質の読者として今日立ちあらわれているか、そして自身の状態をどのように自覚しているかということが、それぞれの周囲にある読者圏へ作用し作用されつつ、文化や文学の明日に影響する因子をなしていると思う。読者の問題は、も・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・それだけ、この『現代文学論』一冊は、評論としての正統な理論的追究と同時に、文学の芸術的因子にこまかくふれた論考であるということが云えるのだと思う。 この十年の間に、日本の文学は実に激しい風浪にさらされた。社会の屋台骨ごと揉まれている。著・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ ひとくちに、戦後の文学、戦後の作家とよばれている現代文学の素質に、このように日本独特な精神の国内亡命が、因子となって作用している事実は、見のがされてはならない点である。 第二次大戦、ファシズムの惨禍を、日本の戦時的日常の現実を、通・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
・・・で作者森山氏は主題の更に重厚な展開のために、主人公のような社会層のインテリゲンツィアと家族関係との奥に潜められている心理的因子を主人公の側からとらえ、掘り下げる必要があったことを心付かずにいた。そのことを伊藤氏も全く見落していられた。「幽鬼・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・ 若い女性自身の生活が内外から呼びさましてゆく、人間的な生活への欲求というものが、問題に答える重要な因子としてここに立ち現れて来る。教育の外貌は益々庭訓風になっているが生活の現実が刺戟する発展への翹望が、若い女性の心に皆無であろうなどと・・・ 宮本百合子 「成長意慾としての恋愛」
・・・民衆、或は大衆というものの内容についての理解が既にそうでなければならないように、様々の現実の因子がふくまれている。進歩的な、積極的な、歴史の先頭を行って、その風波に堪える力をもった要素と、時の大勢にそろそろとついてゆく部分と、最後まで保守的・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・日本の社会の現実のなかでは、特別この点が両性相剋をもたらす因子として大きい役割を演じていることは疑えない。男女相剋の図どりも、日本ではストリンドベリーのそれとは全く異った地盤の上に発生している筈ではないのだろうか。 そこから云えば、一郎・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・ 作者は少くともこの作品の内部では、それらの二様のものの性質を、現実に作用し合う因子として十分に意識し、その本質を追求し、発展の方向に捕えて観察しつくしているとは云い得ないように思える。双方が縺れ絡んでいる、その渦中に身はおかれたままで・・・ 宮本百合子 「はるかな道」
・・・しかも現実は容赦ないから、その生活的思意の無方向のまま矢張り我々は歴史の因子として厳然と存在しつづけ、そのような怠慢で自分が存在したことの報復は極めて複雑な社会全般の事情の推移そのものから蒙って生きて行かなければならない関係におかれているの・・・ 宮本百合子 「文学のディフォーメイションに就て」
・・・特に、この種の作品は、作品の出現の本質に、その点の統一をきびしく求める因子をふくんだものなのである。 一方に池田小菊氏の「札入」がある。他方に尾崎一雄氏の「暢気眼鏡」がある。その中央に、この二人の作家に直接間接影響をもっている志賀直・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫