・・・私が見付けた時にはそれがもうほとんど毛虫だか何だか分らないような団塊になっていたが、ただその囲りから突き出た毛束によってそう考えられたのである。断えず噛みながら脚で器用に団塊を廻して行くので、始めには多少いびつであったのが、ほとんど完全な球・・・ 寺田寅彦 「蜂が団子をこしらえる話」
・・・やがて茎の頂上にむくむくと一つの団塊が盛り上がったと思うとまたたくまにその頭がばらばらに破れて数十の花弁が花火のように放散した。そして絶大な努力を仕遂げてあえいででもいるように波打っていた。そこで惜しいところで映画はふっと消滅してしまった。・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・それを見ても通例女の虚栄心というものは、人間のあらゆる本質的欲求の団塊の、ほんの表面の薄膜に生ずる黴ぐらいのもののように取り扱われているようであるが、はたしてそんなものだろうか。このような婦人が、美服に対した時に、あらゆる理知の束縛を忘れ、・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
出典:青空文庫