・・・ 国定教科書にあったのか小学唱歌にあったのか、少年の時に歌った歌の文句が憶い出された。その言葉には何のたくみも感ぜられなかったけれど、彼が少年だった時代、その歌によって抱いたしんに朗らかな新鮮な想像が、思いがけず彼の胸におし寄せ・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ 石川五右衛門も国定忠治も、死刑となった。平井権八も鼠小僧も、死刑となった。白木屋お駒も八百屋お七も、死刑となった。ペロプスカヤもオシンスキーも、死刑となった。王子比干や商鞅も韓非子も高青邱も、呉子胥や文天祥も、死刑となった。木内宗五も・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 石川五右衛門も国定忠治も死刑となった、平井権八も鼠小僧も死刑となった、白木屋お駒も八百屋お七も死刑となった、大久保時三郎も野口男三郎も死刑となった、と同時に一面にはソクラテスもブルノーも死刑となった、ペロプスカヤもオシンスキーも死刑と・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・かと思って自己満足しているものが大半である。国定忠治の映画の影響かも知れない。 真の正義とは、親分も無し、子分も無し、そうして自身も弱くて、何処かに収容せられてしまう姿に於て認められる。重ね重ね言うようだが、芸術に於ては、親分も子分も、・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 電車で逢った背広服の老子のどの言葉を国定教科書の中に入れていけないといういわれを見出すことが出来なかった。日本魂を腐蝕する毒素の代りにそれを現代に活かす霊液でも、捜せばこの智恵の泉の底から湧き出すかもしれない。 電車で逢った老子は・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・それで、間違ったことが書いてあれば、読者はそれによってその筆者がそういう間違ったことを考えているという、つまらない事実ではあるがとにかく、一つの事実を認識すればそれで済むのである。国定教科書の内容に間違いのある場合とはよほどわけがちがうので・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
去年の八月からきょうまで、十四ヵ月ほどの間、日本じゅう幾百万の国民学校の上級児童は、日本の歴史教科書というものを失っていた。 小学校令が行われ、国定教科書で教えるという方法がきまったのは明治何年であったか知らない。けれ・・・ 宮本百合子 「『くにのあゆみ』について」
・・・ 読者は今度国定教科書の插絵が大変かわったことに気づいていられるだろうか? 先の教科書では、洋服を着、靴をはいて画かれていた小学生の姿が、改正されたものでは、和服で藁草履をはいている。これは何故であろうか? ある人はこれを説明して、「も・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・云わば、芸術労働者の俸給も、ソヴェトではパンと同じに国定相場で支払われているわけだ。 ――じゃ勿論、最低賃銀というものも、はっきり規定されてるわけだね。悪くないな……それで、大体どの位の収入があるんだ? ――話したね、さっき。――各・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫