・・・ わたくしのほしいのは、古事記のような、ごく古い国文の訳本でございます。それからやや降って物語類の中では、源氏物語の訳本が一番ほしゅうございます。 しかしそのわたくしのほしがる訳本というのは、ただ現代語に訳してあるだけで好いと申すの・・・ 森鴎外 「『新訳源氏物語』初版の序」
・・・それから日本人の書いたドイツ文や、日本人のドイツ語から訳した国文を渉猟して見たが、どれもどれも誤謬だらけである。その中でF君は私が最も自由にドイツ文を書き、最も正確にドイツ文を訳すると云うことを発見した。しかし東京にいた時の私の生活はいかに・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・これは十九のとき漢学に全力を傾注するまで、国文をも少しばかり研究した名残で、わざと流儀違いの和歌の真似をして、同窓の揶揄に酬いたのである。 仲平はまだ江戸にいるうちに、二十八で藩主の侍読にせられた。そして翌年藩主が帰国せられるとき、供を・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫