・・・「こんな迷信こそ国辱だね。僕などは医者と言う職業上、ずいぶんやかましくも言っているんだが………」「それは斬罪があるからだけさ。脳味噌の黒焼きなどは日本でも嚥んでいる。」「まさか。」「いや、まさかじゃない。僕も嚥んだ。尤も子供・・・ 芥川竜之介 「湖南の扇」
・・・が、私は「国賊にして国辱」なる多くの人人が「一億総懺悔」という標語のかげにかくれて、やに下っている光景を想像して、不愉快になった。 ある種の戦争責任者である議会人がさきに軍官財閥の三閥を攻撃している図も、見っともよい図ではなかった。がか・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・ レコードでもあまりありがたくないのがある。国辱的レコードというものもいろいろあるのである。二十余年前にワシントン府の青葉の町を遊覧自動車で乗り回したことがあった。とある赤煉瓦の恐ろしく殺風景な建物の前に来たとき、案内者が「世界第一の煉・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・ある友人は国辱中の大国辱だと言って憤慨している。ちょっと勘定してみると普通家屋の全壊百三十五に対し学校の全壊一の割合である。実に驚くべき比例である。これにはいろいろの理由があるであろうが、要するに時の試練を経ない造営物が今度の試験でみごとに・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・それを気にして国辱と思っている人もあるようである。しかし「原大陸」の茫漠たる原野以外の地球の顔を見たことのないスラヴの民には「田ごとの月」の深甚な意義がわかろうはずはないのである。日本人をロシア人と同じ人間と考えようとする一部の思想家たちの・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・それと反対に、もし外国の雑誌にでも、ちょっとした、いい加減な悪口でも出ると、それがあたかも非常な国辱ででもあるように感ぜらるる。 こんな心細い状態が、いつまでつづくのだろう。 十三 日本橋その他の石橋の花・・・ 寺田寅彦 「鑢屑」
・・・(米人のわれに負けたるをくやしがりて幾度も仕合を挑むはほとんど国辱この技の我邦に伝わりし来歴は詳かにこれを知らねどもあるいはいう元新橋鉄道局技師米国より帰りてこれを新橋鉄道局の職員間に伝えたるを始とすとかや。(明治十四、五年の頃それよりして・・・ 正岡子規 「ベースボール」
出典:青空文庫