・・・しかしそれよりもこの人に感心したのは氏が先年H子夫人と同伴で洋行したときに、パリ在住の通信員によって某紙上に報ぜられたこの夫妻の行動に関する記事を読んだときである。パリのまん中でパリジャンを「異人」と呼び、アンバリードでナポレオンの墓を見て・・・ 寺田寅彦 「試験管」
・・・ 一九四五年八月十五日から植民地在住の日本人にあらわに思い知らされた敗亡する侵略者としての足どりは、それらの人々にいってみればさか恨みの感情をもたせたとも思われる。日本の軍国主義にだまされた自身のいきさつを思うよりも、こんな目にあうその・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・それは在住支那人の数名のものを買収なさい。日本人を捕える時には、それは不可能ですが、支那人を捕える時には、それが唯一の手段です。」というような辞句を示している。去年の秋の作品であるが、この粗大な、民族的類型化を卓抜な科学者であるという沼・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・的にひろめ深めてゆこうと努力している点で注目をひいている『埼玉文学』にしろ、同人たちは、より人間らしい社会生活の確保と、その文学の確立のために尽力してゆくという大きくて永続的な人民的努力のうちに、埼玉在住の人々の各種各様の文学的傾向と素質と・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・ベルリン在住の「労働者と一緒にいないと、どんなに淋しいものか」と痛感する佐々木をこめて一群の日本人が集まって個人的な問題を中心として議論したり、居住の地域を問題にしたり、宿主とケンカしたり、引っ越したり、一人の仲間が引っ越すとその仲間が遠い・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・某致仕候てより以来、当国船岡山の西麓に形ばかりなる草庵を営み罷在候えども、先主人松向寺殿御逝去遊ばされて後、肥後国八代の城下を引払いたる興津の一家は、同国隈本の城下に在住候えば、この遺書御目に触れ候わば、はなはだ慮外の至に候えども、幸便を以・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫