・・・ 土神はいきなり狐を地べたに投げつけてぐちゃぐちゃ四五へん踏みつけました。 それからいきなり狐の穴の中にとび込んで行きました。中はがらんとして暗くただ赤土が奇麗に堅められているばかりでした。土神は大きく口をまげてあけながら少し変な気・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・十一、ノルデは三べん胴上げのまま地べたにべちゃんと落とされた。 どうだい。ひどくいたいかい。どう? あなたひどくいたい? ノルデつかれてねむる。十二、ノルデは太陽から黒い棘をとるためにでかけた。 太陽がまたぐらぐらおどりだし・・・ 宮沢賢治 「ペンネンノルデはいまはいないよ 太陽にできた黒い棘をとりに行ったよ」
・・・ 景清 この夏、弟の家へ遊びに行って、甃のようになっているところの籐椅子で涼もうとしていたら、細竹が繁り放題な庭の隅から、大きな茶色の犬が一匹首から荒繩の切れっぱしをたらしてそれを地べたへ引ずりながら、のそり、のそりと出・・・ 宮本百合子 「犬三態」
・・・たった一本広いドライヴ・ウェイが貫いている左右の眺めは、大戦が終って幾星霜を経て猶そのままな傷だらけの地べたである。一本の立木さえ生きのこっていることが出来なかった当時の有様を髣髴として、砲弾穴だけのところに薄に似た草がたけ高く生えている。・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
・・・そして、鳥打帽の庇をふてくされた手つきでぐいと引き下げて、地べたへ唾をはいた。「ヘン! うまいようなこと言ってら! その手はくわないよ。俺あ党員じゃねえんだからね。正直に、手前の背骨を痛くして耕してた百姓から牛までとっちまって、日傭いに・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 政党が、公のものであるならば、自党の得票という私的目的のために、日本人民のおくれた層、封建の陰ふかい地べたから一票でも多くかき集めようと、わざと封建の暗さにおもねることがどんなに誤ったことか、売国的な行為であるかを人民は、明白に知らな・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・居間は以前は地べたに敷物を敷いたばかりでしたが、此頃では大抵の家で低い床を張っているようであります。私は或る日、アイヌの旧家に行ってみましたが、三尺の入口に菰が垂れていて、その菰を押して入ると奥は真暗で、そこにまた真黒な犬がいました。そして・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・げて来た金袋を減らしながら、思い出がたりで暮していたであろうお祖母さんオリガの、嘗てあった生活の幻を注ぎこまれて、中途半端な育ちかたをしたことは、ジャンにとって親を失ったより大きい客観的な不運である。地べたいじりがいやでたまらぬジャンの気持・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・ 相当の太さを持った青竹が地べたから生えている。青竹はきめのつまった独特の艷を持っていて、威勢がよさそうに見えるのに地べたから四尺ぐらいのところで、スパリと胴ぎりにされている。切り口の円いずん胴が見える。新しい芽がふき出すとしたら、・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・子供たちは、工場の地べたにおかれているクズ鉄、クズでない鉄、手あたり次第に、ひろって来るようになった。アルバイトの一種のようにさえ思っている。そういう子供たちに対して、厳粛に訓戒するために、先生は非常に困惑を感じるそうだ。場所がら「特需」景・・・ 宮本百合子 「修身」
出典:青空文庫