・・・わしは西洋の思想は、すべてキリストの精神を基底にして、或いはそれを敷衍し、或いはそれを卑近にし、或いはそれを懐疑し、人さまざまの諸説があっても結局、聖書一巻にむすびついていると思う。科学でさえ、それと無関係ではないのだ。科学の基礎をなすもの・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・いかなる空想的夢幻的の製作でも、その基底は鋭利な観察によって複雑な事象をその要素に分析する心の作用がなければなるまい。もしそうでなければ一木一草を描き、一事一物を記述するという事は不可能な事である。そしてその観察と分析とその結果の表現のしか・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・よく見ると子房の基底部にまっ黒くひからびた虫の糞のようなものがある。それが役目を果たしたおしべの残骸らしく思われる。それが、はち切れそうに肥大した子房の尻に敷かれて哀れをとどめているのである。 種の保存の任務を果たす前は雄が中央にのさば・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・何らかの意味において基底的なるものが考えられるかぎり、それは自ら働くものではない。自己否定を他に竢たなければならない。何処までも自己の中に自己否定を含み、自己否定を媒介として働くものというのは、自己自身を対象化することによって働くものでなけ・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 民主的な社会生活の根本には、人権の尊重という基底が横わっている。人権尊重ということは、正当な思想を抑圧して小林多喜二のような卓抜な一個の社会人・作家を撲殺するようなことが決して在ってはならないという通念を意味する。同時に、それを主体的・・・ 宮本百合子 「今日の生命」
・・・ このあいだ政府はインフレの物価騰貴につれて最低賃銀の基底を公表した。若い人々はあれをみて何を感じたであろうか。男子三十歳から五十歳が最低四百五十円といわれている。では二十八歳の青年、二十五歳の者、二十二歳の者、その人々の労働の報酬はど・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・ヨーロッパの文化の基底をなして来たフランスの個性の評価、「指導的な個人たち」が、第二次世界大戦へ向って動く各国間の矛盾の解決に対して、無力であったばかりか、個々人の影響力というものについてロマンが抱いていた善良であるが悲しい程非現実な期待の・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
出典:青空文庫