・・・ギャングにさらわれ、波瀾の激しい日を送りながらも心の浄い少年が、ついに助け出され巨大な遺産を相続して旦那におさまれるのが、この世の現実であるならば、子供らにとって次第に荒いものとなるその生涯の路上で、堅忍であり、努力的であることも、いわばき・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・けれども、この刻々に変ってゆく一般の情勢のなかで、その変化にひきずられずに変らぬ愛が満たされているためには、全く現実的な周囲の出来事への判断とその理由への明察と、人間生活の真の成長への評価を見失わない堅忍や行動が、求められていると思う。今日・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・名状し難い献身、堅忍、労作、巨大な客観的な見とおしとそれを支えるに足る人間情熱の総量の上に、徐々に推しすすめられて来ている。決して反復されることない個人の全生涯の運命と歴史の運命とは、ここに於て無限の複雑さ、真実さをもって交錯しあっているの・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・これは愉しい予想であると同時に、その予想を人間文化にとって愉しいものたらしめるためには、少なからぬ年月に亙る芸術家たちの文学的堅忍と自己鍛練と生活への意欲とが翹望されなければならぬ問題である。明年度の文学が一躍、輝しき知慧の光と人間の愛に充・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・この二つの世界の一方から、サーニの経験した社会的な内容へうつる歴史の橋が、今の生活の刻々のうちに異常な困難と堅忍を通じながら架せられつつある。私どもはその架橋工事に参加する世代としての権利をもっているのである。浮浪児の社会人的教化は決して、・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・それは切なく辛いにしろ、自分が病んでいるのでなければ、自分の堅忍や努力の力で、互の愛を守れる可能もある。相当愛に確信のある夫婦でも妻の方が永年の病にかかったとしたら、妻であるその人に向けられている劬り、憐憫、愛にかわりはないとして、良人のそ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・年をとった人々でも、やはり尊敬をもって、この卓抜な一婦人科学者の堅忍と潔白とが成就せしめた業績を読みとったと思う。だが、キュリー夫人へのその讚歎をそれなりすらりと日本の現状にふりむけてみて、そこにある日本の婦人科学者の成長の可能条件の可否に・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・そして、この迂遠にして古い大道を行き貫くためには、日本の作家には男にしろ女にしろ特別にたゆみない智慧と堅忍と骨惜しみなさが求められているとも思う。日本にしかない種々の条件は日々の現実の中で常に必しも芸術をのばすものとしてばかりはないからであ・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・この作品には自分たちの生命と、ともにある自分たちのソヴェトの生活を護ろうとして、言葉尠く、勇気と、智慧と、あらゆる堅忍とを以て侵略者と闘ったウクライナの男女農民の姿が見事に描きだされている。作者のワンダ・ワシレフスカヤは周知の通り、ポーラン・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
・・・涙は眼に溢れるけれども、頭は昂然と歴史の前途に向ってもたげ、愛と勇気と堅忍とをもって民主の日本を生きようとするすべての精神にとって、この一巻の書簡集はおくられるのであると思う。〔一九四六年九月〕・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
出典:青空文庫