・・・であるから政治家の変装たるヂレスリーの亜流を随喜しておっても、真の文人たるヂッケンスやサッカレーに対しては何等の注意を払わなかった。当時の文学革新は恰も等外官史の羽織袴を脱がして洋服に着更えさせたようなもので、外観だけは高等官吏に似寄って来・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・そうして、労働者農民の群れは、鉄砲をかついで変装行列のような行列をやりだす。――これは、帝国主義ブルジョアジーが××によって、プロレタリアートを搾取する、その準備にやる行為の一ツである。そのほか、学校も、青年訓練所も、在郷軍人会も、彼等の×・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ときどきひとり部屋の中で、変装してみたりなどしている。語学の勉強と称して、和文対訳のドイルのものを買って来て、和文のところばかり読んでいる。きょうだい中で、母のことを心配しているのは自分だけだと、ひそかに悲壮の感に打たれている。 父は、・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・なるほど、女の芸術家たちが、いちど男に変装して、それからまた女に変装して、女の振りをする、というややこしい手段を採用するのも、無理もない話だ。女の、そのままの実体を、いつわらずぶちまけたら、芸術も何も無い、愚かな懸命の虫一匹だ。人は、息を呑・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・オサダは眼帯をして変装した。更衣の季節で、オサダは逃げながら袷をセルに着換えた。 × どうなるのだ。私はそれまで既に、四度も自殺未遂を行っていた。そうしてやはり、三日に一度は死ぬ事を考えた。 ×・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・ こうしてシロオテは、ヤアパンニアの土を踏むか踏まぬかのうちに、その変装を見破られ、島の役人に捕えられた。ロオマンで三年のとしつき日本の風俗と言葉とを勉強したことが、なんのたしにもならなかったのである。 シロオテは、長崎へ護送さ・・・ 太宰治 「地球図」
・・・ときどきひとり部屋の中で、変装してみたりなどしている。語学の勉強と称して、和文対訳のドイルのものを買って来て、和文のところばかり読んでいる。きょうだい中で、家のことを心配しているのは自分だけだと、ひそかに悲壮の感に打たれている。―― 以・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・例えば、瑣末な例であるが『武道伝来記』一の四に、女に変装させて送り出す際に「風俗を使やくの女に作り、真紅の網袋に葉付の蜜柑を入」れて持たせる記事がある。この網袋入りの蜜柑の印象が強烈である。また例えば『桜陰比事』二の三にある埋仏詐偽の項中に・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・トラックの中に、荷物の間に五六人のスキャップを積み込んで、会社間近まで来たとき、トラックの運転手と変装していた利平が、ひどくやられたのもこのときであったのだ。 それでも、職長仲間の血縁関係や、例えば利平のように、親子で勤めている者は、そ・・・ 徳永直 「眼」
・・・父を愛するエリカは、農婦に変装した。そして、いつぞやの早まわりで賞品としてもらった小型フォードにのりこみ、ミュンヘンに潜入し、危険をおかしてひとたびはすてた家に忍びこんだ。そして原稿を盗み出し、真夜中に、もう二度とみる希望のないその家を去っ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
出典:青空文庫