・・・ ポルジイは非常な決心と抑えた怒とを以て、書きものに従事している。夕食にはいつも外へ出るのだが、今日は従卒に内へ持って来させた。食事の時は、赤葡萄酒を大ぶ飲んで、しまいにコニャックを一杯飲んだ。 翌日まだ書いている。前日より一層劇し・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・ 話は変わるが二三日前若い人たちと夕食をくったとき「スキ焼き」の語原だと言って某新聞に載っていた記事が話題にのぼった。維新前牛肉など食うのは禁物であるからこっそり畑へ出てたき火をする。そうして肉片を鋤の鉄板上に載せたのを火上にかざし・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・ 夕方藤田君が来て、図書館と法文科も全焼、山上集会所も本部も焼け、理学部では木造の数学教室が焼けたと云う。夕食後E君と白山へ行って蝋燭を買って来る。TM氏が来て大学の様子を知らせてくれた。夜になってから大学へ様子を見に行く。図書館の書庫・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・都合で夕食後にバウムに灯をつけました。きれいでした。室の片側へ机を並べて、皆一同の贈物が陳列してありました。二人の下女もそれぞれ反物をもらって喜んでいました。親子が贈物を取りかわし「ムッター」「ヘレーネ」とお互いに接吻するのはちょっと不思議・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・ きのうの夕食に出たミカドアイスクリームというのは少し日本人の気持ちを悪くさせる性質のものではないかとハース氏に言ったら、「そんな事はない、それより毒滅という薬の広告のほうがはるかにドイツ人にわるく当たる」と言って笑った。四月十四日・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・これは夜電燈の光をあてて見ると、もっとよくあざやかに見えます。夕食のお膳の上でもやれますからよく見てごらんなさい。それもお湯がなるべく熱いほど模様がはっきりします。 次に、茶わんのお湯がだんだんに冷えるのは、湯の表面の茶わんの周囲から熱・・・ 寺田寅彦 「茶わんの湯」
・・・それに比例して子供らの興味も増して行った。夕食のあとなどには庭のあちらこちらに伏兵のようにかくれていて、うっかり出て来る子猫を追い回してつかまえようとしていたが、もうおとなにでもつかまりそうでなかった。あまりに募る迫害に恐れたのか、それとも・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・余り帰りが遅くなるので、秋山の長屋でも、小林の長屋でも、チャンと一緒に食う筈になっている、待ち切れない夕食を愈々待ち切れなくなった、餓鬼たちが騒ぎ出した。「そんなに云うんだったら、帳場に行ってチャンを連れて来い」 と女房たちが子供に・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・それにしても、もう夕食になろうとするのに、何だって今日は面会を許すんだろう。 私は堪らなく待ち遠しくなった。 足は痛みを覚えた。 一舎の方でも盛んに騒いでいる。監獄も始末がつかなくなったんだ。たしかに出さなかったことは監獄の失敗・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・ さっきから台所でことことやっていた二十ばかりの眼の大きな女がきまり悪そうに夕食を運んで来た。その剥げた薄い膳には干した川魚を煮た椀と幾片かの酸えた塩漬けの胡瓜を載せていた。二人はかわるがわる黙って茶椀を替えた。膳が下げられて疲れ切・・・ 宮沢賢治 「泉ある家」
出典:青空文庫