・・・ 民主的批評は、たしかに、新しくてしなやかに若い四肢をもとうとしている。多面的であろうとしている。しかし、それがたやすい仕事でないことは、たとえば『新日本文学』六月号瀬沼茂樹の作品評に示されていたと思う。瀬沼茂樹は去年の末、批評の無力論・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・ これらのしめくくりは、しかし、去年という三百六十五日の間にわたしたちが生活と文学との肌身へじかにうけて生きて来た激しい暑さ、さむさ、ほこりっぽい複雑さのいろいろを、その深さ、その多面なひろがりそのものにおいて整理したものであると言えた・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ ソヴェトではいかに文字が実際生活の理解、建設に必須な武器かということは、一ヵ月この驚くべく前進的で柔軟性に富んだ多面な新社会の中に生活して見れば忽ちわかる。 たとえば日本女は小説を書くのが本職である。だから、未来に於てソヴェトの芸・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ そして、このような成長も、考えてみれば、つづまるところ婦人の文化資質のより高い、より多面な開花にまたなければならないということを、意味ふかく感じる。 宮本百合子 「子供のためには」
・・・ 全集の普及は、わたしたちすべての人民が、歴史における運命を一歩前進させるための足がかりとして小林多喜二の生涯と文学とを、あらゆる角度から多面的に摂取するための何よりの機会である。〔一九四九年二月〕・・・ 宮本百合子 「小林多喜二の今日における意義」
・・・明治以来の社会生活の急激な推移は、わるい形で外国崇拝を習慣づけているばかりでなく、日常の生活感情をも多面的に変化させている。過去の芸術上の美は、改めた目で見直され、改めて美しさのそれぞれの典型として歴史の中に評価され直さなければ、後代の生活・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・ないけれども、民主主義文学の諸問題の各面をそれぞれに担当して、ずっとよんで綜合してみれば、なるほど、民主主義文学の発展のためには、これこれの問題があると、しっくり会得できるというふうな意味での客観的な多面性又啓蒙性を示したものではありません・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・その作家がその作品を描くにあたっての創作の方法、文学的な美および善とされているものの性質、それらを作品の生きている感銘そのものにおいて分析、綜合して、より新しいより多面な創造の養いとしてゆく、その過程においてこそ、一つの文学の勉強がある。古・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・その政治の貧困さを補充してゆくためには、民主的な政治そのものの具体的な成熟が期待されると同時に、文学は文学の側から自身の独自性のうちにより人間らしい政治性を豊富に発育させ、政治の多面性を証拠だてても行かなければならない。それは作家の資格にお・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・作家としての自分が従来の作品の文学性の砦の胸壁のようにそこへ胸をもたせかけて来ていた人情というものをその現実のありようの多面のままにどこまでさわり以上のものとして発展させてゆくか。云ってみれば、これまでの自分にいかに幻滅し得る勇気をもってい・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
出典:青空文庫