・・・更に突飛なのは、六十のお婆さんまでが牛に牽かれて善光寺詣りで娘と一緒にダンスの稽古に出掛け、お爨どんまでが夜業の雑巾刺を止めにして坊ちゃんやお嬢さんを先生に「イット、イズ、エ、ドッグ」を初めた。 いよいよ出でて益々突飛なるは新学の林大学・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 夜業禁止や、時間制により、工場はある不幸な児童等は救はれたのであるが、尚、眼に見えざる場処に於ての酷使や、無理解より来る強圧を除くには、社会は、常に警戒し、防衛しなければならぬであろう。そして、積極的に彼等がいかなる、境遇に置かれつゝ・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・ 蟹田なる鍛冶の夜業の火花闇に散る前を行過ぎんとして立ちどまり、日暮のころ紀州この前を通らざりしかと問えば、気つかざりしと槌持てる若者の一人答えて訝しげなる顔す。こは夜業を妨げぬと笑面作りつ、また急ぎゆけり。右は畑、左は堤の上を一列に老・・・ 国木田独歩 「源おじ」
・・・ と、気がついたふうに、それから廊下をへだてた、まだ夜業をしている工場の方へ、大声でどなった。「安雄ッ、武ちゃん――」 よばれた二人の文選工が、まだよごれ手のまま、ボンヤリはいってくると、「お前たち、もう今夜はいいから、ポス・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 工場の昨今では、早出、残業、夜業は普通であるし、設備の不十分な下請け工場の簇出と不熟練工の圧倒的多数という条件は、工場内での災害をこれまでの倍にした。警視庁がこれに対して、十二時間を限度とする警告を発したのは遠いことではなかった。母性・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・黒い足場の間に人は夜業する照明燈の蒼白い強い光線を見、行き違う鉄骨の複雑な影のこい錯綜から、これは巨大な何かが地からもり上って来るのを、人間がたかってある一定の大いさまでおしつけ、まとめて、熱心にかためようと働いていると云う感じを受ける。全・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 若すぎるといって夜業をさせないでしょうか? プロレタリアートは永い経験によって、プロレタリアートの十八歳の女は、職場で立派に一人前の生産単位であることを知っています。十八歳の娘が、集会で意見を述べ、また述べるべき実際的な意見をもって・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 次に夜業四割引反対の闘争のために、全員をまき込むことを考え、親睦会の自治化をはかる。幹事改選に壮年のSを当選させる。そして、大衆的懇談会で革新有志二十人をつくる。国鉄。 一般に官業だから政府のつぶれぬうちは従業員の生活は保・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・一八八五年に行われたモロゾフ工場のストライキの結果、幼少年者の搾取の制限、婦人の夜業禁止、二週間目毎に賃銀を支払うこと、罰金はこれまでのように二十五パーセントとらず賃銀の五パーセントに止めるというような工場法めいたものがきめられたが、工場監・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・重工業の大工場は今更ラジオとさわぎはしないのであるし、景気の煽りで夜業しているような民間小工場では、ラジオをきいている暇もない、であろうから。 こういう細かい生活の実況であるにもかかわらず、総体としてラジオが益々大勢にきかれるようになっ・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
出典:青空文庫