・・・―― 今この三等夜汽車で靴をはいたまんま寝て揺られている旅客の何人かが、一九一七年から二一年までの間にその光栄あるСССРの歴史的シラミを破れ外套の裾にくッつけてあるいていなかったと誰がいえる。さっき、その大きい二つの眼をステーションの・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・鹿児島と長崎など、ただ一夜汽車に乗るだけで、見ぬものにこうも違おうとは考えられまい。私の願いは、いつかもう一遍、これ等の国々を、汽車の線路よりは少し自由に奥まで彷徨い歩いて見たいことだ。どうぞその時までには、編輯者諸君が沢山私の稿料をくれま・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ その中で、自分が草臥れきって眠っていた下関発の夜汽車は、丹那で大断層の起った少しあと三島駅を通過した。 伊豆地方の大震災 惨たる各地の被害 震源地は丹那盆地 死者二百三十二名 伊豆震災救済策 震災地方の納税減免・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・そうして、遠くへ行く鈍い三等の夜汽車のなかの光景を思い浮かべた。それは老人や母親にとって全く一種の拷問である。しかし彼らには貧乏であるという事のほかになんにも白状すべきことがない。彼らは黙って静かにその苦しみに堪える。むしろある遠隔な土地へ・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫