・・・学舎の壁は火で煤け、天井はやっと夜露を凌ぐばかりだが学者達は半片の紙、半こわれの検微鏡を奇蹟のように働かせて、真理へ一歩迫ろうとしています。イオイナ そうだろう。――そうなければなりません。そして、私の忠実な僕の芸術家達は、巫女のような・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ あなた方がお母様に寝部屋につれて行っていただいて冬は暖い、夏は涼しいお床にお入んなさる時に私共は、外の夜露の下りる木の下にねる事がある事です。 びっくりなさるでしょう?B まあ、外でねるの。 そりゃあいけないわ、 夜は・・・ 宮本百合子 「旅人(一幕)」
・・・ 地面にじかに投げ出されたものの中には、塩瀬の奇麗な紙入だの、歌稿などが、夜露にしめった様にペショペショになってある。「此那になって居るのを見るのはほんとにいやだ事。一そ一思いに皆持って行って仕舞えば好いのに。 私は、醜・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・えるほどの大きさ、まわりの草は此の頃の時候に思い思いの花を開いてみどり色にすんだ水と木々のみどり、うすき、うす紅とまじって桔梗の紫、女郎花の黄、撫子はこの池の底の人をしのばすようにうす紅にほんのりと、夜露にしっとりとぬれてうつむいて居る。・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・板塀の上に二三尺伸びている夾竹桃の木末には、蜘のいがかかっていて、それに夜露が真珠のように光っている。燕が一羽どこからか飛んで来て、つと塀のうちに入った。 数馬は馬を乗り放って降り立って、しばらく様子を見ていたが、「門をあけい」と言った・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫