・・・もう大丈夫ですから、御安心なさい。さあ、早く逃げましょう」 妙子はまだ夢現のように、弱々しい声を出しました。「計略は駄目だったわ。つい私が眠ってしまったものだから、――堪忍して頂戴よ」「計略が露顕したのは、あなたのせいじゃありま・・・ 芥川竜之介 「アグニの神」
・・・「それだけわかっていれば大丈夫だ。目がまわったも怪しいもんだぜ。」 飯沼はもう一度口を挟んだ。「だからその中でもといっているじゃないか? 髪は勿論銀杏返し、なりは薄青い縞のセルに、何か更紗の帯だったかと思う、とにかく花柳小説の挿・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・お婆様が波が荒くなって来るから行かない方がよくはないかと仰有ったのですけれども、こんなにお天気はいいし、風はなしするから大丈夫だといって仰有ることを聞かずに出かけました。 丁度昼少し過ぎで、上天気で、空には雲一つありませんでした。昼間で・・・ 有島武郎 「溺れかけた兄妹」
・・・おとうさんがもう大丈夫だから家にはいろうといったけれども、ぼくははいるのがいやだった。夜どおしでもポチといっしょにいてやりたかった。おとうさんはしかたなく寒い寒いといいながら一人で行ってしまった。 ぼくと妹だけがあとに残った。あんまりよ・・・ 有島武郎 「火事とポチ」
・・・「その舌だと思ったのが、咽喉へつかえて気絶をしたんだ。……舌だと思ったのが、糠袋。」 とまた、ぺろりと見せた。「厭だ、小母さん。」「大丈夫、私がついているんだもの。」「そうじゃない。……小母さん、僕もね、あすこで、きれい・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・「省さんはわたしに負けたらわたしに何をくれます……」「おまえにおれが負けたら、お前のすきなもの何でもやる」「きっとですよ」「大丈夫だよ、負ける気づかいがないから」 こんな調子に、戯言やら本気やらで省作はへとへとになってし・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・かの女の浅はかな性質としては、もう、国府津に足を洗うのは――はたしてきょう、あすのことだか、どうだか分りもしないのに――大丈夫と思い込み、跡は野となれ、山となれ的に楽観していて、田島に対しもし未練がありとすれば、ただ行きがけの駄賃として二十・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・「へへ、誰も人は聞いてやしませんから大丈夫でさ」「あれ、まだこの人はあんなことを言って! 金さんと私とは、娘の時からの知合いというだけで――それは親同士が近しく暮らしてたものだから、お互いに行ったり来たり、随分一緒にもなって同胞のよ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・角という大駒一枚落しても、大丈夫勝つ自信を持っていた坂田が、平手で二局とも惨敗したのである。 坂田の名文句として伝わる言葉に「銀が泣いている」というのがある。悪手として妙な所へ打たれた銀という駒銀が、進むに進めず、引くに引かれず、ああ悪・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・ もう大丈夫。脚を一本お貰い申したがね、何の、君、此様な脚の一本位、何でもないさねえ。君もう口が利けるかい?」 もう利ける。そこで一伍一什の話をした。 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
出典:青空文庫