・・・これによると、大アルメニアの大僧正が、セント・アルバンスを訪れた時に、通訳の騎士が大僧正はアルメニアで屡々「さまよえる猶太人」と食卓を共にした事があると云ったそうである。次いでは、フランドルの歴史家、フィリップ・ムスクが千二百四十二年に書い・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・身は、傅の大納言藤原道綱の子と生れて、天台座主慈恵大僧正の弟子となったが、三業も修せず、五戒も持した事はない。いや寧ろ「天が下のいろごのみ」と云う、Dandy の階級に属するような、生活さえもつづけている。が、不思議にも、そう云う生活のあい・・・ 芥川竜之介 「道祖問答」
・・・この祈祷をここですれば大僧正から百日間のアンジュルジャンスを与えるとある。「年ふるみ像のみ前にひれふしノートルダームのみ名によりて祈りまつる、わが神のみ母よ……」というような文句であります。数世紀の間パリの喜び悲しみをわれらの祖先がここにこ・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・これは大僧正クランマーである。青き頭巾を眉深に被り空色の絹の下に鎖り帷子をつけた立派な男はワイアットであろう。これは会釈もなく舷から飛び上る。はなやかな鳥の毛を帽に挿して黄金作りの太刀の柄に左の手を懸け、銀の留め金にて飾れる靴の爪先を、軽げ・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・ 梟の、きっと大僧正か僧正でしょう、坊さんの講義が又はじまりました。「さらば疾翔大力は、いかなればとて、われわれ同様賤しい鳥の身分より、その様なる結構のお身となられたか。結構のことじゃ。ご自分も又ほかの一切のものも、本願のごとくにお・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
出典:青空文庫