・・・ 倭将の一人――小西行長はずっと平壌の大同館に妓生桂月香を寵愛していた。桂月香は八千の妓生のうちにも並ぶもののない麗人である。が、国を憂うる心は髪に挿したまいかいの花と共に、一日も忘れたと云うことはない。その明眸は笑っている時さえ、いつ・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・負傷者は直ちに北区大同病院にかつぎ込み加療中。――この乱闘現場の情景を目撃してゐた一人、大和農産工業津田氏は重傷に屈せず検挙に挺身した同署員の奮闘ぶりを次のやうに語つた。――場所は梅田新道の電車道から少し入つた裏通りでした。一人の私・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・「一筆示し上げ参らせ候大同口よりのお手紙ただいま到着仕り候母様大へん御よろこび涙を流してくり返しくり返しご覧相成り候」 何だつまらない! と一人の水兵が笑いだした。水野はかまわず、ズンズン読む、その声は震えていた。「ついてはご自・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・咲枝さんはまだうちです。大同書院という本屋から瀧川政次郎著『法律からみた支那国民性』というのが出ましたが御覧になるでしょうか。御返事下さい。 私は注射をやめました。やめ時らしくて先生から言い出されたから。何となしのんびりです。セザンヌの・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・同君と木村荘八君との共著『大同石仏寺』が出たのは関東震災よりも前である。これでよほどはっきりして来たが、しかしまだ雲岡の全貌を伝えるには足りなかった。その後二十年くらいたって、奈良の飛鳥園が撮影しに行き、『雲岡石窟大観』という写真集を出した・・・ 和辻哲郎 「麦積山塑像の示唆するもの」
出典:青空文庫