・・・物部 「ポロペッ」大河。韮生 「ニナラ」高原。また「ニ」樹「オロ」豊富。夜須 「ヤシ」網を引く。別府 「ペッポ」小河。別役 「ペッチャ」河「クッ」咽喉。またチャムで「ボ」は遮断、「チョ」は山。仁西 「ニセイ」絶壁。・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・ 七 妙な夢を見た。大河の岸に建った家の楼上にいる。どういうわけかはわからないが、この自分はもう数分の後には、別室に入って、自分からは希望しない自殺を決行しなければならないことになっている。その座敷というのがこっ・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・ 船はいつか小名木川の堀割を出で、渺茫たる大河の上に泛んでいる。対岸は土地がいかにも低いらしく、生茂る蘆より外には、樹木も屋根も電柱も見えない。此方の岸から水の真中へかけて、草も木もない黄色の禿山が、曇った空に聳えて眺望を遮っている。今・・・ 永井荷風 「放水路」
・・・小山を三つ越えて大河を一つ渉りて二十哩先の夜鴉の城に居る。夜鴉の城とは名からして不吉であると、ウィリアムは時々考える事がある。然しその夜鴉の城へ、彼は小児の時度々遊びに行った事がある。小児の時のみではない成人してからも始終訪問れた。クララの・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・五月雨の大井越えたるかしこさよ五月雨や大河を前に家二軒五月雨の堀たのもしき砦かな 夕立の句は芭蕉になし。蕪村にも二、三句あるのみなれども、雄壮当るべからざるの勢いあり。夕立や門脇殿の人だまり夕立や草葉をつ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
印度のガンジス河はあるとき、水が増して烈しく流されていました。それを見ている沢山の群集の中に尊いアショウカ大王も立たれました。大王はけらいに向って「誰かこの大河の水をさかさまにながれさせることのできるものがあるか」と・・・ 宮沢賢治 「手紙 二」
・・・生活の大河は、その火花のような恋、焔のような愛を包括して怠みなく静かに流れて行く。確かに重大な、人間の霊肉を根本から震盪するものではあっても、人間の裡にある生活力は多くの場合その恋愛のために燃えつきるようなことはなく、却って酵母としてそれを・・・ 宮本百合子 「愛は神秘な修道場」
・・・母なるヴォルガ河、船唄で世界に知られているこの大河の航行は、実に心地のいい休養だ。ニージュニときくと、恐らく或る者はそう思いもするだろう。 いずれにせよ、ニージュニは、全ソヴェト勤労者の日常生活にとってそう密接な関係はなかった。 と・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・何年ぶりかで夜の大河を眺め、なかなかいい気分でした。惜しいことに河岸でゆっくり腰かけやすむところがなくてね。どこかお台場かどこかへ小さい船の出る浮棧橋まで出てみたら、モーターボートが通ると波のうねりでその小さい四角な棧橋がプワープワーと揺れ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫