・・・幼いときからして天主の法をうけ、学に従うこと二十二年、そのあいだ十六人もの先生についた。三十六歳のとき、本師キレイメンス十二世からヤアパンニアに伝道するよう言いつけられた。西暦一千七百年のことである。 シロオテは、まず日本の風俗と言葉と・・・ 太宰治 「地球図」
・・・その頃、小田原の城跡には石垣や堀がそのまま残っていて、天主台のあった処には神社が建てられ、その傍に葭簀張の休茶屋があって、遠眼鏡を貸した。わたくしが父に伴われて行った料理茶屋は堀端に生茂った松林のかげに風雅な柴折門を結んだ茅葺の家であった。・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
・・・ 濠を渡せば門も破ろう、門を破れば天主も抜こう、志ある方に道あり、道ある方に向えとルーファスは打ち壊したる扉の隙より、黒金につつめる狼の顔を会釈もなく突き出す。あとに続けと一人が従えば、尻を追えと又一人が進む。一人二人の後は只我先にと乱・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・白塔は塔中のもっとも古きもので昔しの天主である。竪二十間、横十八間、高さ十五間、壁の厚さ一丈五尺、四方に角楼が聳えて所々にはノーマン時代の銃眼さえ見える。千三百九十九年国民が三十三カ条の非を挙げてリチャード二世に譲位をせまったのはこの塔中で・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・これらの中世のおそろしい情熱の物語、情熱の悲劇は、当時絶対の父権――天主・父・夫の権力のもとに神に従うと同じように従わなければならなかったスペインやイタリヤの女性たちの胸の中に、もう「人間」が目覚めはじめてきていた証拠である。教会と父権とが・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・しかし羅山自身の天主に関する批判も同様である。「聖人を侮るの罪のみは忍ぶべからず」という態度であるから、ほとんど議論にはならないのである。したがってこの書は、青年羅山の眼界が非常に狭く、考え方が自由でないことを思わせる。 羅山は非常に博・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫