・・・「島山鳴動して猛火は炎々と右の火穴より噴き出だし火石を天空に吹きあげ、息をだにつく隙間もなく火石は島中へ降りそそぎ申し候。大石の雨も降りしきるなり。大なる石は虚空より唸りの風音をたて隕石のごとく速かに落下し来り直ちに男女を打ちひしぎ・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・作者は、忠直卿という若い激しい性格の封建の主君が、君臣関係のしきたりによって自分がおかれている偽りの世界への憤懣から遂に狂猛な暴君のようになり、隠居とともに天空快闊となった次第を語っている。作者は忠直卿とともに、人間関係の真率、偽りなさ、ま・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 今まで無邪気に天空で戯れていた少年が人のいない周囲を見廻し、ふと下を覗いたときの、泣きだしそうな孤独な恐怖が洩れていた。「そうだろうな。」 答えようのない自分がうすら悲しく、梶は、街路樹の幹の皮の厚さを見過してただ歩くばかりだ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫