・・・女の才能がこの社会と家庭生活の事情の中で伸ばされていないことは、男の天質も決して人間らしく伸ばされてはいないことを語っている。才能も殺されている。それに対して女が遺憾に思う気持と、男が遺憾に思っている気持とを互に知りあい信じあうこと、そして・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・ただ従来、そのひとの程度というとき、個人的な限度で、各人の天質とか仁とかいう範囲でだけ内容づけられていたものを、もっと社会的な複雑な要因の綯いまぜられたものの動きとして感じているから、そういう実質でかりに我々の程度というときには、個人に及ぼ・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・詩人よ、すぐれた天質を高めよ。詩が理性のうたであるときいて、しりごみした旧い詩人たちの素朴さ。わたしたちの理論が情熱の美感と一致するとき――実感の新しい誕生によってこそ、わたしたちのささやかな存在も人類のよろこびの小さい花となります。又して・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
・・・深田氏は、くねくね式説話には向かぬ天質の人に生れているのではなかろうか。やっぱり正面から当るたちではなかろうか。深田氏はこの作を書き終ることで、その点をどう考え、作家としての自己をどう発見しておられるか。私はそれらのことを、考えるのである。・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・これ等はただ、その人の内奥にある人格的な天質がそれ自身で見出すべき道に暗示を与え、自身の判断を待つ場合、思考の内容を豊富にするという点にのみ価値を持っていると思います。 私は、過去に多くの人々が真愛に達し、輝きの自体と成ったのを知ってい・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・を観て深く刻まれた感動を、ケーテが四年の間じっと持ち続けて、ついに作品にまとめたということは、ケーテという婦人画家の天質の一つの特質を語るものではないだろうか。モティーフを、自身の感情の奥深くまで沈潜させ、すっかりわがものとしきらなければ作・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ブランデスは品がいい天質のひとですね、私はやはり同じ作家の研究について、そういう感じをうけました。そして、ところどころで思わずにやついた。ブランデスはあんなに鋭く背景となった十八世紀時代の動きを分析していながら『人間喜劇』の作者が、上品な詩・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ある女性が詩人であるということと、作家であるということとのちがいをきめるのは、文学の天質のちがいであることは明瞭である。そのように、小説をかく婦人と児童のために書く婦人とは、めいめいの文学の天質のちがいに立っているのであって、程度の高低だの・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・を熟読して、春のやおぼろは自身の天質がこれからの小説を書いてゆくには適していないことを知って、遂に小説をやめたということが、先生自身の回想として書かれていた。 この插話は、おどろくような自分を見る眼のあきらかさと同時に、聰明というものの・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・往年、その事大主義的な天質に従って学生運動の頭領となった一人の男が、同じ天質に従って今日は文化に対する統制の旗ふりとなっている現実である。小林多喜二的なものや芥川龍之介的なものが、発展的に批判されなければならないのは、もとより明かであるが、・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
出典:青空文庫