・・・ 兄を兄とも思わないで、散々に罵って好い気で居るお金に対して女らしい恨み――何をどうすると云う事も出来ないで居て、只やたらに口惜しい、会う人毎にその悪い事を吹聴する様な恨みが、ムラムラと胸に湧いてお節は栄蔵を叱る様に、「そやから・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
私たち婦人が「女らしい」とか「女らしくない」とかいう言葉で居心地わるい思いをしなくなるのはいつのことだろう。 日本の社会も、袂で顔をかくして笑うのを女らしさといったり、大事な返事をしなければならないときに口もきけなくて・・・ 宮本百合子 「「女らしさ」とは」
・・・ 特に、二幕目の始め、お絹の処へ林之助が訪ねて来た時、心に一杯の恨みと憤りとを持ちながらも、男が来たと知ると我知らず手をあげて髪をなおすしぐさの、如何にも中年のああ云う商売の女らしい重々しさと情緒を含んでいたところ、三幕目に行って、小女・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・―― 絵物語の女が桃龍自身の通り大きな鼻をもっているところ、境遇的な感じ方で描くところ、若い女らしいものが流露していてそれが桃龍だけに、ひろ子は可憐な気がした。「さ、あて着物かえさしてもらお」 隈を自分の顔に描いて遊んでいた里栄・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・そして、女らしいとか女らしくないとかいう通俗のめやすから苦しみを感じさせられている私たち日本の女の経ている現在の段階にも思いがひそめられる。「この心の誇り」という題で鶴見和子氏がパール・バックのこの作品の抄訳を出している。パール・バック・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・「女らしい生きかた」「女として生きる道」としてしつけられて来たその道、そのやりかたで、女はもう生きることさえかたくなっているのだという事実が示されている。 この本が、同情と同感のためばかりによまれるべきだとは考えられない。わたしたちが生・・・ 宮本百合子 「『この果てに君ある如く』の選後に」
・・・彼女は女らしい自分流儀の直覚で、佇んでいる私の顔を正面から見たら、浅間しい程物慾しげな相貌を尖らせているだろうと思うから。又、黒衣黒帽のストイックは、其処に恐ろしい現代人の没落と地獄的な誘惑とを見たと思うまいものでもない。 彼には、現を・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・まだ若い女らしいな。こう思って返事をした。「でも時候が違うではございませんか。」言ってしまって、如何にも自分の詞が馬鹿気て、拙くて、荒っぽかったと感じたのである。 女は聞かなかった様子で語り続けた。「わたくしは内へ帰りますの。あちらでは・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・人形使いはたとえば右肩をわずかに下げる運動によって肢体全体に女らしい柔軟さを与えることができる。逆に言えば肢体全体の動きが肩に集中しているのである。ところでこのように肩の動きによって表情するということも「能」の動作が全然切り捨て去ったところ・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
・・・能の動作の中に全然見られないような、柔らかな、女らしい体のうねりが現われてくれば、同じ女の面でも能の舞台で決して見ることのできない艶めかしいものになってしまう。その変化は実際人を驚かせるに足るほどである。同じ面がもし長唄で踊る肢体を獲得した・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫