・・・ 女手がなくなって、お君は早くから一人前の大人並みに家の切りまわしをした。炊事、縫物、借金取の断り、その他写本を得意先に届ける役目もした。若い見習弟子がひとりいたけれど、薄ぼんやりで役にもたたず、邪魔になるというより、むしろ哀れだった。・・・ 織田作之助 「雨」
・・・南でバーをやってた女が焼けだされて、上本町でしもた家を借りて、妹と二人女手だけで内緒の料理屋をやってるんですよ」「しもた屋で……? ふーん。お伴しましょう」 戎橋から市電に乗り、上本町六丁目で降りるともう黄昏れていた。寒々とした薄暗・・・ 織田作之助 「世相」
・・・一人一人が自分の机に向ってやっていて、そのとき書いているものがごく先へ行った女性の解放論であるにしろ、それをかく最中、家の雑用に頻々と煩わされるのはやりきれなく、妻なり誰なり女手が仕事をやれる空気をつくるために求められる。 家屋の仕事だ・・・ 宮本百合子 「職業のふしぎ」
出典:青空文庫