・・・おふみに扮した山路ふみ子は、宿屋の女中のとき、カフェーのやけになった女給のとき、女万歳師になったとき、それぞれ力演でやっている。けれども、その場面場面で一杯にやっているだけで、桃割娘から初まる生涯の波瀾の裡を、綿々とつらぬき流れてゆく女の心・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・ 荒っぽく寝がえりをうちながら女給が舌うちをした。焦々といやな気持になってそれをきいていたのは自分ひとりでなかった。―― 出たらこの留置場での経験をきっと書いて置こう。自分は段々そういう気になって来た。 留置場の五十日や百日・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・を主張しているそうですが、バーや女給やデカダンスの中では毅然たるものが発生しにくいし他に生活はないし、背骨が立たぬから説話体をこね上げたらし。解子さんなどこういう才能の跳梁に「私は小説を書いてゆけるかしら」とききに来られました。作家の生活の・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・永井荷風は往年の花柳小説を女給生活の描写にうつした「ひかげの花」をもって、谷崎潤一郎は「春琴抄」を、徳田秋声、上司小剣等の作家も久しぶりにそれぞれその人らしい作品を示した。そして当時「ひかげの花」に対して与えられた批評の性質こそ、多くの作家・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・バーの女給。よたもん。茶色の柔い皮のブラウズ。鼠色のスーとしたズボン。クラバットがわりのマッフラーを襟の間に入れてしまっている。やせぎすの浅黒い顔、きっちりとしてかりこんだ髪。つれの女の子、チェックのアンサンブル黒いハンドバッグと手・・・ 宮本百合子 「情景(秋)」
・・・ この時代に広津和郎の「女給」が現れた。一面から見ればこの作品はこの作家の連載物への動きであるが、「女給」というものが現代の日本の社会で経ている在りようを、享楽の対象としてではない面から描こうとされたところに、単なる通俗性への屈伏以外の・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・彼女は立ってからも障子を見つめていたが、のろのろはる子の方に振り向き、「私カフェーの女給にでもなってしまおうかと思います」と云った。その声はやっと聴える程細かった。「×さんもそういう仕事をしていらしったんでしょう?」 千鶴子・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・ 最近日本では、その筋書とは逆な侯爵令嬢の十七日女給ということが、現実の社会で行われた。その侯爵令嬢が、ほかならぬ故東郷元帥の孫娘であったことは、世間の視聴をそばだてしめた。 良子嬢が、浅草のカフェー・ジェーエルで、味噌汁をかけた飯・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 作家の菊池寛は、今日女で男なみに給料のとれるのは女給だけだ、と云った。そして、見識あるらしく、今の女は、専門技術家としてどんな技術ももっていないと云っている。しかしこれは「今の女」のつみだろうか。日本の教育は男児と女児とを、小学校のこ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・田舎での女の暮しの楽しみ少なさばかりが際立って顧みられ、都ぶりに好奇心や空想を刺戟され、カフェーの女給の生活でさえ、何かひろい天地に向って開いている窓ででもあるかのように魅力をもって見られるのであると思う。 処女会の訓練法は、はたして若・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫