・・・「ここの奴等は、だいぶいいものを持っていそうだぞ。」 永井は、村なりを見て掠奪心を刺戟された。彼は、ここでもロシアの女を引っかけることが出来る――それを考えていた。「おい、いくら露助だって、生きてゆかなきゃならんのだぜ。いいもの・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・そういう奴等は、一とたび帝国主義××が起れば、反対するどころか、あわてはためいて、愛国主義に走ってしまうのだ。 三 帝国主義××は、何等進歩的意義を持っているものではなく、却って、世界の多数の民族を抑圧すると共に、・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・それは彼奴等に対して、この上もないブベツ弾になるのだ。殊にコンクリートの壁はそれを又一層高々と響きかえらした。 しばらく経ってから気付いたことだが、早くから来ているどの同志も、屁ばかりでなく、自分独特のくさめとせきをちアんと持っていて、・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・『……なアに、他の奴等は、ありゃ医者じゃねえ、薬売だ、……とても、話せない……』なんて、エライ気焔だ。でも面白い気象の人で、近在へでも行くと、薬代が無けりゃ畠の物でも何でも可いや、葱が出来たら提げて来い位に言うものですから、百姓仲間には受が・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・それに対しても吾々若いものは皆激しい意気込を持っていたから、北村君などは「どうも世間の奴等は不健全で可かん」とあべこべに健全を以て任ずる人達を、罵るほどの意気で立っていた。北村君が最初の自殺を企てる前、病いにある床の上に震えながらも、斯うい・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・まさか町の奴等のように人を下目に見はすまい。みんなで少しずつ出し合ってくれたら、汽車賃が出来るに違いない。」 一群は丁度爪先上がりになっていた道を登って、丘の上に立ち留まった。そして目の下に見える低い地面を見下した。そこには軌道が二筋ず・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・あっちの木は、もっとひどいよ。奴等のくそだらけだ。」 そう言って彼は、ほえざるの一群を指さした。ほえざるは、もう啼きやんでいて、島は割合に平静であった。「坐らないか。話をしよう。」 私は彼にぴったりくっついて坐った。「ここは・・・ 太宰治 「猿ヶ島」
・・・少くとも社会の進歩にマイナスの働きをなしている奴等は全部、死ねばいいのだ。それとも君、マイナスの者でもなんでも人はすべて死んではならぬという科学的な何か理由があるのかね」「ば、ばかな」 小早川には青井の言うことが急にばからしくなって・・・ 太宰治 「葉」
・・・そうするとあなたたちはまた、東京で暮して来た奴等は、むだ使いしてだらしがないと言うし、それかと言って、あなたたちと同様にケチな暮し方をするともう、本物の貧乏人の、みじめな、まるでもう毛虫か乞食みたいなあしらいを頂戴するし、いったい、あなたの・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・真にこの名に値いする奴等は世に知られていないばかりでなく、知ろうとしても知り得ない。だから、あなたなんか、安心して可なりですよ。しかし、時たま、我輩こそオリジナルな文人だぞ! という顔をして徘徊している人間もありますけどね、あれはただ、馬鹿・・・ 太宰治 「渡り鳥」
出典:青空文庫