・・・窓ひらく。好人物の夫婦。出世。蜜柑。春。結婚まで。鯉。あすなろう。等々。生きていることへの感謝の念でいっぱいの小説こそ、不滅のものを持っている。審判 人を審判する場合。それは自分に、しかばねを、神を、感じているときだ。・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・しかし細君はごく大人しい好人物だというので近所の気受けはあまり悪い方ではなかったらしい。 主人のジュセッポの事を近所ではジューちゃんと呼んでいた。出入りの八百屋が言い出してからみんなジューちゃんというようになったそうである。自分は折々往・・・ 寺田寅彦 「イタリア人」
・・・しかしごく気の小さい好人物で柔和な目にはどこやら人を引く力はあった。自分はこの男の顔を見ると、どういうわけか気の毒なというような心持ちがした。この男の過去や現在の境遇などについては当人も別に話した事はなし、他からも聞いた事はなか・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・一、恢復して伝道、〔欄外に〕Leading passion for Utari. 周囲の人 母 好人物 ドメスティック 弟 山雄 富次郎 バチェラー一族 姉 浪花節語り ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・己は騎兵科で、こんな服を着て徒歩をするのはつらかったが、これがあれば、もうてくてく歩きはしなくっても好いと云って、ころころしていた司令官も、随分好人物だったね。あれから君は驢馬をどうしたね。」記者が通訳あがりに問うたのである。「なに。十・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫