・・・仏法は体の如く、世間は影の如し。体曲がれば影斜なり」 それ故に王法を安泰にし、民衆を救うの道は仏法を正しくするをもって根本としなければならぬ。 しからばいかなるが仏の正法であるか。 日蓮によれば、それは法華経をもって正宗としなけ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ 女性に宗教心のないのは「玉の杯底なきが如し」である。信心の英知の目をみ開いた女性ほど尊いものはないのである。そうでないとどんなに利口で、才能があり、美しくても何か足りない。しかも一番深いものが足りない。また普通にいって品行正しい、慈愛・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・古い経文の言葉に、心は巧みなる画師の如し、とございます。何となく思浮めらるる言葉ではござりませぬか。 さてお話し致しますのは、自分が魚釣を楽んでおりました頃、或先輩から承りました御話です。徳川期もまだひどく末にならない時分の事でござ・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・打見たるところ譬えば糸を絡う用にすなるいとわくというもののいと大なるを、竿に貫きて立てたるが如し。何ぞと問うに、四方幕というものぞという。心得がたき名なり。 石原というところに至れば、左に折るる路ありて、そこに宝登山道としるせる碑に対い・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・の縁であるが如しと前人も説いているが、稲荷に狐は何の縁もない。ただ稲荷は保食神の腹中に稲生りしよりの「いなり」で、御饌津神であるその御饌津より「けつね」即ち狐が持出されたまでで、大黒様(太名牟遅神に鼠よりも縁は遠い話である。けれども早くから・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・に曰く学術技科の進闡せしをば人の心術風俗に於て益有りしと為す乎将た害ありしと為す乎とルーソー之を読みて神気俄に旺盛し、意思頓に激揚し自ら肺腸の一変して別人と成りしを覚え、殆ど飛游して新世界に跳入せしが如し。因て急に鉛筆を執りファプリシュース・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・製作の経験も何もない野次馬たちが、どうもあの作家には飛躍が無い、十年一日の如しだね、なんて生意気な事を言っていますが、その十年一日が、どれだけの修業に依って持ち堪えられているものかまるでご存じがないのです。権威ある批評をしようと思ったら、ま・・・ 太宰治 「炎天汗談」
・・・それ、読んで字の如しじゃないか。しっぽがあるから、有尾類さ。あははは。」さすがに、てれくさくなったらしい。笑った。私も笑った。「しかし、」と先生は、まじめになって、「あれは興味の深い動物、そうじゃ、まさしく珍動物とでも称すべきでありまし・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・では元気で、僕のことを宣伝して呉れと筆をとること右の如し。林彪太郎。太宰治様机下。」「メクラソウシニテヲアワセル。」「めくら草紙を読みました。あの雑誌のうち、あの八頁だけを読みました。あなたは病気骨の髄を犯しても不倒である必要があり・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・人形町を過ぎやがて両国に来れば大川の面は望湖楼下にあらねど水天の如し。いつもの日和下駄覆きしかど傘持たねば歩みて柳橋渡行かんすべもなきまま電車の中に腰をかけての雨宿り。浅草橋も後になし須田町に来掛る程に雷光凄じく街上に閃きて雷鳴止まず雨には・・・ 永井荷風 「夕立」
出典:青空文庫