・・・長男が中学校の始業日で本所の果てまで行っていたのだが地震のときはもう帰宅していた。それで、時々の余震はあっても、その余は平日と何も変ったことがないような気がして、ついさきに東京中が火になるだろうと考えたことなどは綺麗に忘れていたのであった。・・・ 寺田寅彦 「震災日記より」
・・・或る春の心持の晴々とする朝、始業の鐘が鳴り、我々は、二階の教室に行こうとしていた。 どうかして自分はおそくなり、列の後の方に跟いて行った。皆、さほど大きな声は出さず、然し、若い生活力が漲り溢れるような囁きを交しながら、階段を昇って行く。・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・その頃は、毎朝、始業前に、運動場に集って深呼吸と、一寸した運動をすることになっていた。先生は、そのような時、その水色襷で、袂をかかげられる。 十字に綾どられた水色襷が、どんなに美くしく、心を捕えたのか。私と同級の一人の友達は、いつの間に・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・ 翌日は、夜が大変更けた故か孝ちゃんの一家の眼を覚ましたのはもう九時近くであったので、学校の始業時間よりおくれて起きた女中が炊く御飯をたべて間に合う筈がない。「困っちゃったなあ、 僕やだなあどうしよう。 おいお前何故早く・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
出典:青空文庫