・・・個人の一挙一動は寒天のような濃厚な媒質を透して伝播するのである。 反応を要求しない親切ならば受けてもそれほど恐ろしくないが、田舎の人の質樸さと正直さはそのような投げやりな事は許容しない。それでこれらの人々から受けた親切は一々明細に記録し・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・の刺激もあるであろうし、マルキシズムの注入によって周囲の媒質の「酸度」に変更を生じたためもあろうし、また一般文化の進歩のために思想の内容が豊富複雑になったために一種の「滲透圧」が増大して伝統詩形の外膜を押し広げようとする力が働いたためもある・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・がなければ、流言蜚語は成立しない事は勿論であるが、もしもそれを次へ次へと受け次ぎ取り次ぐべき媒質が存在しなければ「伝播」は起らない。従っていわゆる流言が流言として成立し得ないで、その場限りに立ち消えになってしまう事も明白である。 それで・・・ 寺田寅彦 「流言蜚語」
出典:青空文庫