・・・ という声が喉に湧いて来るような習性をもっていない男の中から、できることなら良人も発見して、お嫁入りではない結婚と呼ぶにふさわしい生涯の歩み出しを願っている。女性として社会に求めている積極の面で働こうと欲していると思う。それだのに結婚の対象・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ 貧亡(しても、コンミッションで喜ばれるよりええと云って、空元気をつける栄蔵も、お節の心が今となって、しみじみ味わわれた。嫁入りの時作った小紋の重ねだの、八二重の羽織などにかけた金が今あったらと、今手元にあったら、買って仕舞わないもので・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・光井の叔父上も相変らず、かっちゃん[自注4]のお嫁入りはもう二三年のばす由です。このかっちゃんと、私は虹ヶ浜へ昨年の一月行きました。それは冬の海で松林が私に多くの想像を刺戟しました。あの松林に月がさしたらどうであろうかと。そして、あなたのか・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・青春の美しさは、それなりの麗わしさとして感ぜられず、娘盛り、お嫁入りと常識のなかで結びつけられていたからこそ、白粉が匂うことにもなったのだと思う。女性の一生の見かたのなかに日頃からそういうモメントがふくまれていることには寸毫も思いめぐらさな・・・ 宮本百合子 「歳月」
・・・ところが、歴史の強力な変化は、若い女のひとが学校を卒業したらすぐ家庭でお嫁入りの仕度にとりかからせないで、社会的な勤務の場面に吸収しようとしている。この二三年来、日本の女の力はおびただしく生産の場面に進み出しているのだが、とくに来年の春から・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・母が嫁入りの時持って来てふだんは使われない紫檀の小机がある。それを親たちの寝所になっていた六畳の張出し窓のところへ据えて、頻りに私が毛筆で書き出したのは、一篇の長篇小説であった。題はついていたのか、いなかったのか、なかみを書く紙は大人の知ら・・・ 宮本百合子 「行方不明の処女作」
・・・ あなたが、自分は解放運動のために働くしか生きるに道がないと信じ、良人の考えは変らず、離婚するしかないと分れば嫁入り前の妹のことを気に病むなどということもないでしょう。 夫婦は、つまり同志でなければ、われわれの場合うまく、力を揃えて・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
出典:青空文庫