・・・骨組の逞ましい、この女の足袋は、だふついて汚れていた……赤ら顔の片目眇で、その眇の方をト上へ向けて渋のついた薄毛の円髷を斜向に、頤を引曲げるようにして、嫁御が俯向けの島田からはじめて、室内を白目沢山で、虻の飛ぶように、じろじろと飛廻しにみま・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・……そこで一頃は東京住居をしておりましたが、何でも一旦微禄した家を、故郷に打っ開けて、村中の面を見返すと申して、估券潰れの古家を買いまして、両三年前から、その伜の学士先生の嫁御、近頃で申す若夫人と、二人で引き籠もっておりますが。……菜大根、・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・万一この手廻しがのうてみさっしゃい、団子噛るにも、蕎麦を食うにも、以来、欣弥さんの嫁御の事で胸が詰る。しかる処へ、奥方連のお乗込みは、これは学問修業より、槍先の功名、と称えて可い、とこう云うてな。この間に、おりく茶を運ぶ、がぶりとの・・・ 泉鏡花 「錦染滝白糸」
出典:青空文庫