・・・ 火鼠の裘ですか、蓬莱の玉の枝ですか、それとも燕の子安貝ですか? 小町 まあ、お待ちなさい。わたしのお願はこれだけです。――どうかわたしを生かして下さい。その代りに小野の小町を、――あの憎らしい小野の小町を、わたしの代りにつれて行って下・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・「ああ、誓願のその一、求児――子育、子安の観世音として、ここに婦人の参詣がある。」 世に、参り合わせた時の順に、白は男、紅は女の子を授けらるる……と信仰する、観世音のたまう腹帯である。 その三宝の端に、薄色の、折目の細い、女扇が・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 塾では更に校舎の建増を始めた。教員の手が足りなくて、翌年の新学年前には広岡理学士が上田から家を挙げて引移って来た。 子安という新教員も、高瀬が東京へ行った序に頼んで来た。子安は、高瀬も逢ったことが無い。人の紹介だ。塾ではどんな新教・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ 段々本気に子安講のことを討論しはじめた。部落で一戸ある裏切者を中心に四五人がかたまってその講をたて飲んだり食ったりしているんだそうだ。「――みんなあ、産が安かんべと思って、講さ入ってるのよ」「講さ入んねえばって生めるよ。入っていて・・・ 宮本百合子 「飛行機の下の村」
出典:青空文庫